部活動-3-
けいどろ開始の時間が迫り、ケイサツ側は揃って昇降口に向かう。
と、そこで悠里がドロボウ組の下駄箱を見て回った。
「何してるの?」
「いや、念のためちゃんと外に出てるか調べてたんだ」
靴を持ったまま靴下で室内に入られていたら詰んでいるが、そこまで疑ってしまうときりが無いため、五人は外に出た。
この時点でけいどろは開始されることになった。
「さて、渚以外は回ってみるか」
刑務所を昇降口前にして、渚以外の四人はそれぞれ別に探し回った。
けいどろとは言っても実際はケイサツがドロボウを見つけなければ何も始まらないので、あてもなにもないまま地道に探すしかない。
だが、所詮は学校内。一人くらいすぐに見つかると誰もがタカをくくっていた。
「なんで誰一人見つからないんだ……」
二十分近くまで探していたが、ドロボウ組の影すら見つかっていない始末だった。
一旦緊急の作戦会議を開くことになり、メールでみんなを刑務所に集めた。
「さすがにおかしい」
「隠れそうなところは一通り探したはずなんだけど」
この結果に疑問しか抱くことが出来なかった五人は知恵を振り絞って考えた。
やはり校内に潜伏している恐れがあるため、飛鳥と悠里は一回見て回ることになった。
残りの三人は引き続き外を見ることにして一旦別れた。
二人になった彼女らは校内を一階からグルリと回ってみた。
校内には生徒は疎らで、教室に残っている彼らの楽しげな話し声が廊下に響いているほどだ。外には部活をしている生徒たちの活気な声が溢れ出ているが。
「そう言えば、カナカナとテルテルはうまくいってるのか?」
ふと悠里が今気付いたことを口に出した。
悠里が言ってることは文化祭以降の発展についてだったのだが、相変わらずの飛鳥の返しだった。
「はい、うまくいってますよ」
「うーん、そうじゃないんだ……こう聞けばよかったかな。カナカナに対してテルテルは今までとは何か変わったか?」
今度はちゃんと悠里の思ってた通りの答えが返ってくると思った。
が、悠里の思ってたことと違ったのはそれ以上のことだった。
「えっと……あ、なんとなくですけど、照くんが優しくなった気がします」
あの照が優しい。
そんな考えられない事態が飛鳥に降り起こっている事実に、悠里は受け入れることが出来ずにいた。
「や、優しいってどんな感じなんだ?」
「えっとですね……いつも晩ご飯のお裾分けをするんですが、いつもなら渋々といった感じで受け取るんですけど、最近ぶっきら棒に受け取るんです」
「…………それは、優しいのか……?」
自分が間違っているのかが不安になる一例だったが、それで満足していないと勘違いをした飛鳥は話を続けた。
「他には、休みの日にお邪魔をして掃除をするんですけど、前よりは汚くなくなりました」
「うーん…………?」
「あとですね、たまにメールをするんですけど、前までは返してこなかったのにたまに返してくれるようになりました」
「……すまんカナカナ。私の中の優しいという定義が崩れそうだからもうやめてくれ」
悠里のギブアップで、飛鳥と照の私生活暴露会が終わった。当の本人はまだ話し足りない様子だったが。
「とにかく、あまり変わらないようでよかったよ。それからあの女子生徒とは何かあったか?」
やや強引な話の切り替えだったが、飛鳥は特に気にせずに新たな話題に乗った。
あの女子生徒。それは飛鳥の頬に傷をつけた生徒のことだ。
悠里の先ほどとは違った表情に、飛鳥も誤魔化さずにちゃんと報告した。
「あの日以降、会ってないです。影から見られてることもないですし、嫌がらせも受けてないです」
「そっか。それはよかった」
とりあえずその言葉を信じることにした悠里は一安心した。またいつ襲いかかってくるかわからないため、部長として色々と心配しているのだ。
だが、そんな心配をしなくていいと言わんばかりに飛鳥は最後にこう言った。
「きっともう大丈夫です。照くんが言ってくれましたから」
この事件を最善で最小限の方法で解決した彼の名前を聞いて、悠里はこれまでの考えを改めることにした。
予想以上に照と飛鳥の距離は縮まっていることを。
「……これは卒業するまでかからないかな」
「何か言いました?」
「いや。さぁ、それじゃあ探すか」
そんな期待を胸にしまって、今はその彼のことを見つけることにした。




