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文化祭 後編-4-

「ごめんなー。文化祭回れなくてー」

「と、とんでもないです! き、急に言ったのは僕の方ですから!」

 キャンプファイヤーを見ているのは彼女らも例外ではなかった。陽と奏汰は隣同士でそれを座って見ていた。

 表面上付き合ってることにした二人はカップルらしく文化祭を一緒に回ろうとしていたが、登校して早々唐突に他のクラスの劇を手伝い、それが終わったかと思えば自分のクラスに帰宅部や陸上部の出し物があったり、それらの休憩中はあの事件の犯人探しをさせられていたため、時間を作ることができなかったのだ。

 こんなに働いているのに全てボランティアとして行っている彼女の容態が心配だったが、体力も元気も兄からの愛も十分ある、と笑って言っていた。

 もっとも、兄の手伝いをできたことに喜びを感じて疲れが吹き飛んだだけの話だが。

「じゃあさー、そのうちどっかで会うかー」

「ぅえぇええ!? いいいいいいいんですか!?」

「悪いことしたからなー。それの償いだー」

 待ってたら別の日にデートをしてくれるなら奏汰はいつでも待っていよう、と心に決めた瞬間だった。

 だが、デートという今までとは無縁で魅力的な言葉に頭が爆発しそうになっていたものの、今置かれている状況を思い出してしまってすぐ片隅に追いやられてしまった。

「(どうしよう……色んな人に見られてる……)」

 二人の半径十メートル以上離れてこちらを取り囲むようにして見てくる生徒たちがいて、ヒソヒソと何か話している様子だった。

 確実に陽のファンの人たちで、隣にいる奏汰の存在に疑問を抱いてる感じであった。

 陽はたくさんの人に見られていることに慣れているのか或いは気付いていないだけか、そんなことを気にもかけずに奏汰に話しかけてきている。彼女がそうやって話しかける度にまた生徒たちがヒソヒソの話し始める。

 こんな板ばさみな状況がもどかしくて、一体どうしようかと悩んでいた。

「(ぼ、僕が離れたらいいのかな……ああでもそうしたら遊木宮先輩に僕の聞かれるに違いないし…………そしたらなんて答えてくれるのかな……か、かかか彼氏って、言ってくれるかな……友達ってもし言ったらどうしよう……で、でも! い、いいい一応、つき、つつ付き合ってるから…………ああああだったらこの場から離れない方がいいのかな……でももしこのまま誰かが聞いてきたら…………)」

 頭の中で葛藤を繰り返して悶々としていた。

 ようやくそんな彼が自分の話を聞いていないことに気付いた陽は彼のことを呼んだ。

「なー、どーかしたかー?」

「なっ!? ななななななんでも、ないですよ!?」

「変なのー」

 自分に向けて笑ってくれてる姿も、今は拷問でしかなかった。生徒たちの視線が物理的に刺してきているみたいで、奏汰はやつれそうになっていた。

「(あああああああああああどうしたら!? どうしたら乗り切ることができるの!?)」

「…………」

「んー? なんか言ったかー?」

 ショート寸前の頭で、無意識に何か彼の口から言っていたらしい。陽が耳を立てて聞き直してくる。

「…………このまま、時間が止まってしまえばいいのに……」

 最終的な回答はこれだった。時間が止まれば色々と問題が解決するのではないか、と冷静を失った彼の出した答えであった。

 その言葉を確かに聞いてしまった陽は、それを理解するために数秒考え、そしてそれがわかった時には顔が真っ赤になっていた。

「な、ななななななななななんな」

 茹でタコのように身体から湯気が出るほどに全身が赤くなり、ゆらゆらと立ち上がり、

「そんなことできるかバカぁぁぁあああああああああ」

 そう叫びながら校門へ全力で走っていってしまった。

 奏汰は無意識の返答だったため、何故陽が顔を赤くして罵倒して帰ってしまったのか全くわからなかった。

 ただ言えることは、周りにいた生徒たちが暴走した陽に気を取られていたが、すぐさま奏汰に注目が集まって逃げ場がなくなったことだった。





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