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文化祭 後編-3-

 飛鳥の事件に終止符を打ち、次に訪れたのは後夜祭。

 ほとんどの生徒はこれに参加するために急いで片付ける作業をしている。

 これまでとは違った意味で、学校内は喧騒に満ちている。

 文化祭に別れを惜しむ人たちは少なからずいるが、始まりがあればいつかは終わりが来る。そう割り切って行動するしかなかった。

 飾り付けを外し、いつもの風景へと段々戻っていく教室。

 形あるものはいずれなくなるが、儚くも過ぎていった時間は思い出として残り続ける。

 それの延長戦が後夜祭。みんな思っていることは同じで、まだ夢を見ていたいのだ。

「えーっと、みんな集まってきた頃なので、これから後夜祭を始めたいと思います」

 生徒が校庭に集まり、クラスごとに文化祭の名残りを持ってきて待機していた。

 それを見て進行役である生徒会長が判断した。

 隣には会計の初歌が立っていて、生徒会長の補佐をしている。

「ふふふ……悲しいが、夢からは醒めるのが自然の摂理。しかし、それもまた一興! 残りの夢物語を存分に楽しもうではないか!」

「はいはい。それじゃあその夢物語の欠片を置いてください」

 補佐されているのは周知の事実だったが。

 これから先生たちの監督の下、キャンプファイヤーを始める。

 自分たちが時間をかけて作った大きな思い出を、校庭の真ん中に設置されてある丸太で作られた塔に入れ込む。

 その箇所に全てのクラスの思い出が集まったら、炎を灯火する。

 静かな燃え上がりから、どんどんと激しさを増し、安全な位置に離れていても熱気が届いてくる。

 煙が天高く昇っていき、薄くなって消えていく儚さはまるで生徒たちの心のようだった。

「それじゃあ、毎年恒例のフォークダンスをしますので、参加したい人は二人組になってください」

 十分な時間が経ってから志馬はアナウンスを入れた。

 勿論それをやらない生徒はいなく、誰もが二人組を作ろうとしていた。

 一部の生徒はこの場を借りて告白をしていた。成功した者もいれば失敗した者もいる。三者三様である。

「よー、しまくん、うたちゃん」

 と、志馬たちに近づいてきたのは悠里と渚の二人だった。

 彼女たちも当然参加すると志馬は思っていたため、あまり驚かずに訊ねる。

「二人で踊るのか?」

「勿論。二人は踊らないのか?」

「進行があるし、今年は遠慮しとくよ」

 私情より仕事を優先する彼に、隣にいる彼女は少しだけ寂しそうな顔をする。

 それを見た渚は、そんな彼女にこっそりと耳打ちをしてきた。

「今年で最後だから、頑張って」

「う、うむ……」

 幼馴染みから声援を貰い、初歌は頭の中で先程から何度も考えていることをまた考える。

 このままで本当にいいのか、と。

 というより、自分からいかないとこの男はきっとわかってくれない。

「わ、我が友よ!」

「ん? どうした?」

 改めてきた初歌に志馬は体ごと向き直って聞いてくる。

 今度こそ言うしかない、あの生徒会室のような失敗をするわけにはいかなかった。

「あ、えと……その……」

 しかし、ただ誘うだけなのに緊張してしまい、口から上手く言葉が出てこなかった。

 頬が熱くなり、落ち着こうとしても逆効果になってしまっている。

 そんな初歌に対して、志馬は彼女の心情を知らずに先に話し始めた。

「そう言えば、今更だけど俺なんかと一緒に進行役をやってよかったのか? こいつらみたいに誰かと踊りたかったとかなかったのか?」

 志馬のその言葉は、まだここにいた渚にしか意味を理解することができなかった。

 こいつの鈍感は。と呆れてため息をついていた。

 しかし初歌が何か言おうとしたが、志馬の発言によって遮られてしまった。

「今年で俺たちの文化祭は終わるし、最後に誰かと一緒にいたらどうだ?」

 それは初歌にとってわかりきっていることだと思っていた。

 でも、志馬が口にしてくれたことによって、ようやく自分の今思ってることがわかったような気がした。

 今必ずしもフォークダンスを踊らなければならないのか。

 確かに一緒に踊りたい。けどそれ以上に思ってる気持ちがあることがようやくわかった。

「…………いや。我はこのままで良い。今は我が友と一緒にいればそれで良い」

 その顔は先ほどとはまるで別人のようで、ひどく落ち着いた様子で、しかしどこか嬉しそうな表情だった。

 志馬はそんな初歌を見て、そっか、と一言告げてキャンプファイヤーを見てしまった。

 悠里と渚は二人の邪魔をしないために、フォークダンスを踊りに向かって行った。

 ここにいるのは志馬と初歌の二人だけ。

 二人だけで見るキャンプファイヤーは初めてだった。

 二年分見てきたはずだったが、今年のはそれとはまた違って見えた。

「綺麗だな」

「うむ。終焉へと繋がる業火は獰猛さを増して輝いている」

 隣でいるだけで、今はそれだけでよかった。




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