文化祭 前編-1-
文化祭当日となる土曜日。
飛鳥はいつもより少し早めに起きて準備していた。
明日のことが楽しみで眠れなかったというのもあったが、隣がうるさくて熟睡ができなかったのもある。
昨晩、隣には輝が泊まりをすることになり、更に陽まで参戦しにやってきたので、家族水入らずということで飛鳥はお邪魔しなかったが、逆に睡眠妨害をされていた。
「照くんたち、いつまで起きてたのかな……」
深夜遅くまでドタバタとしていた音が聴こえてきたので、今日に悪い影響がなければいいけどと不安になっていた。
そしてその不安は見事的中した。
準備を完了して家から出てみると、照の家の玄関前の廊下にタバコを吸って壁にもたれかかっている輝がいた。
上下真っ白な下着姿で。
「な、なななななな、ななななななななななな!?!?」
飛鳥はそんな破廉恥な姿を見て冷静でいられるはずもなく、声にならないほどの悲鳴をあげて輝に詰め寄る。
「なんて姿してるんですか!? かか風邪引きますし、あああ危ないですよ!?」
「あまり大きな声を出さない方がいい。近所迷惑になる」
常識から逸脱した姿で常識を語る彼女は飛鳥の大声で響いた頭を押さえていた。
輝の言葉でハッとなって、少しだけ落ち着いた飛鳥は引き続き状況の確認を急いだ。
「どうして朝からそんな格好をしてるんですか?」
「カガリンはテルルンに会わないでいるとテルルン分が不足していく身体なんだ」
唐突に今の姿のことではないことを語り出す輝。話す前に今度は自分用の吸殻入れにタバコを捨てた。
「前回会った日は元日。つまり半年以上経ってる」
「そ、そうですね」
「だから半年分のテルルン分を充電してきた」
「えっと、照くん分を充電するのと、その格好は何か繋がってるんですか?」
察しの悪い飛鳥に、輝はチェンジアップで理解できるように説明した。
「アカリンもいたから三人で一晩中シた」
「した……? …………〜〜〜!?」
チェンジアップかどうかは曖昧ではあったが、輝の言っていることとこの姿の理由がようやくわかった飛鳥だった。その反面首まで真っ赤にして口に出す言葉を失っていた。
飛鳥のウブな反応を見ても、輝は何も思わずに足元に置いてあった缶を持った。
「そこまで過剰に反応することかな?」
「だ! だって!? あ……その、兄妹? 姉弟?同士なのに……」
途中で自分の声が大きかったことに気付けて抑えたものの、輝の下着姿以上にパニックになっている。
そのせいで今輝が持っている缶がなんなのかさえ理解することができていなかった。
「家族の愛は十人十色と同じ。それがたとえ正しくても歪んでいても愚かでも、愛としては同じだ」
「ぅえええ……」
話すことでは絶対に勝てないとわかっている飛鳥は輝の言葉を肯定するしかないと悟ろうとした。
その時、ふと視界に入ったのは輝が口につけている缶だった。その缶はお酒のマークがついていた。
「(もしかして遊木宮さん、酔っ払ってるのかな)」
そう思ってチラッと彼女の顔色を窺ってみる。その顔は全体的にほんのりと赤く、酔っていると表しているものだった。
「(なんだ。酔っ払って適当なことを言ってボクのことからかってるのかな)」
「朝っぱら玄関前でうるせぇよ……」
ガチャ、と施錠されていなかった照の家のドアが開かれる。声音からして照本人であることは間違いなさそうだ。
輝の話を半分聞き流しながらも彼の方を見る。
「あ、照くん、今日はぶん……」
彼女は、彼の格好は寝間着だと思い込んで話しかけていた。が、その思い込みのせいで判断が鈍り、朝何度目かとなる思考の停止が行われた。
彼は上半身裸で下着丸出しだった。
「〜〜〜〜〜〜ッ!?!?」
気付いた時には飛鳥は全力で駆け出していた。
頭の中は真っ白なはずなのに、遊木宮姉弟の姿が鮮明にフラッシュバックしている。
それを振り払うかのように学校へと走った。
「頭いてぇってのに……なんだ、あいつ」
「それはカガリンたちの格好のせいかな」
昨晩、遊木宮たちは輝の発案でお酒を飲むことになってしまった。
子供の時から飲んでいるので抵抗はなかったが、深夜ということと時間の長さがあったため、夜明け前には完全に三人とも潰れてしまっていた。
輝は二時間ほどで目を覚まして体調を整えるために吐いてからタバコを吸っていたということだ。
「…………なんで俺こんな格好なんだよ」
「お酒は恐いかな」
未成年はお酒を飲んではいけません。




