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文化祭準備-5-

 輝は実家から離れた場所にあるエスカレーター式の大学を兼ねている私立高校に入学していた。

 そこは寮生活ができると知っていたため、入学後には寮での暮らしを初めていた。

 その間、輝は実家には年に数回しか帰らず寮に篭っていた。

 家庭にはドライと思われてたが、極度のブラコンであることが知れ渡るのには時間はかからなかった。

 そんなことが原因でもあったが、輝という有名人が寮で生活しているとわかれば突撃したくなるのが一般的だった。

「家にあまり迷惑はかけたくないから。それでも大人たちは関係なく来るけど」

 二人は並んで飛鳥の住むマンションに向かっていた。彼女の家にお邪魔するわけではなく、その隣の家に用があるからだ。

 輝曰く、家に一回来てみたが留守だったので、仕方なく高校まで来て照と陽が出てくるまで待っていたところだったのだ。

 携帯を使えばいい話だったのだが、輝は携帯が嫌いでいつも部屋に充電しっぱなしの状態で放置されている。

 遊木宮家は携帯を携帯しない家族なのかな、と飛鳥はそっと心の中で呟いた。

「しかし驚いたものだよ。カガリンのことを知らずにただ声をかけてくる人はキミが六人目だ」

「六人目、ですか」

 嬉しいのかよくわからないまま、飛鳥はただ苦笑いをする。先ほどの鋭い眼光はなく、彼女から物腰が柔らかな雰囲気をかもちだしている。

 歩き出す時、タバコを吸いながらでもいいかと聞いてきて、飛鳥は一瞬考えたが構わないと答えたら、

「キミは優しい人だ。アカリンの言う通りだ」

 そう言ってタバコを取り出すことなくスタスタと歩き出していた。

 不思議な人だと飛鳥からは輝に対してそう思った。

 もう一つ飛鳥は思ったことがある。

「恐らくテルルンの話は聞いていたのかな。さっき驚いたのはカガリンがどうしてここにいるのか、それとカガリンがキミの知っていたカガリンということの一致。それかキミは世間に疎すぎるか。になるわけだが」

 洞察力や想像力が飛鳥の会ってきた人達より遥かにいいことだった。

 周りのことを本当によく見ていて、何か一言呟いただけで何もかも知られそうになるくらいにだ。

「あぁすまない。カガリンは知りたがり屋なんだ。癖だと思ってほしいかな」

「知りたがりなのも子供の頃から、ですか?」

「そうかな。カガリンは天才ではないから、努力家になって秀才になろうと頑張っている」

「目標が高いですね」

「高くはない。寧ろ低い。誰にでもできることだ」

「え? でも秀才は天才と同じじゃないですか?」

「秀才と天才は違うかな。例えるなら努力家のカガリンと天才家のアカツンくらいに差ができている」

「えーっと……あかつん?」

「アカツンはカガリンの兄。体育会系にその名を轟かせ流星のように去った人だ」

「あっ……ごめんなさい」

「そうか。キミはカガリンたちの名前を知ってるだけで他は聞かされていないし知らないのかな。教えたのはきっとテルルンかな」

「……なんでもわかるんですね。それともボクがわかりやすいだけですか?」

「キミは寧ろ逆だ。それにカガリンは何も知らない。知らないから考えて理解する。ただそれだけ」

「ふ、深いですね」

「アカツンは笑ってた。『知らないってことがわからない』って」

「ぼ、ボクと住んでる世界が違うセリフですね……」

「それがアカツン。カガリンの一番尊敬して一番大好きな人」

 飛鳥にとって体験できない会話を繰り広げられ、退屈せず充実した下校時間だった。ほとんどが輝と暁の話となったが。

 無事マンションに着いて、照の家の前に到着する。

「わざわざ一緒に来てくれて助かった。礼を言うよ」

「いえ、帰り道が一緒だっただけですよ」

「テルルンの彼女なのにそう謙遜しなくても構わない」

 沈黙。

 突然のストレートな言葉に飛鳥はノーガードで受けてしまい、固まってしまった。

 その反応を見て、輝は首を傾げた。

「彼女ではないのかな? アカリンから聞いていたが、随分親しげだと理解していたが」

 彼女が何やら考えているうちに、飛鳥はようやく復帰することができた。

「……あ、あの……ボクと照くんはそんなんじゃないですよ」

「そうなのか。それはすまない、訂正しよう」

「みんなそう言うんです。照くんに迷惑かけてるんです」

 飛鳥のその発言は、輝には理解できなかった。

「何故テルルンに迷惑がかかると思うのかな?」

「何故って、こんなボクと照くんとじゃ釣り合わないし、そもそもボクと照くんは嫌い同士です」

「…………」

 顎に指を置き、考えをまとめているように輝は熟考していた。

 何を考えているんだろう、と飛鳥が思っていたらすぐに輝は口を開いていた。

「あの言い方だと、つまりキミは自分が可愛くないし綺麗ではないしテルルンのことが嫌いだと」

「はい、そうですけど……」

「…………」

 確認を取るような質問をして、再び考え込んだ輝だったが、答えにたどり着けたのか顎から指を離した。

「キミは何故自分が可愛くないと思うかな?」

「え? ……それは、その……ドジで頭も悪くて、世間知らずだから……」

「それは内面的なことで、カガリンは外側のことを訊いている」

 一歩、輝は飛鳥に近付いた。

「可愛くないと言い張るなら、オシャレをしないのが筋ではないかな。それに服も綺麗にしない。なのにキミは服装はおろか髪型もちゃんとしている」

「あ、あの……」

 また一歩近付く。

「キミは頭の中では可愛いとわかっているはずだ。わかっていないならこんな格好はできはしない」

 そして輝と飛鳥の距離が歩幅一歩分にまで狭まった。

「キミは可愛い。たとえ自覚していなくても頭が知ってる。それに他の人みんな知っている。そんなに自分を卑下する必要はないとカガリンは知った。もう少し自信を持つことが必要かな」

 飛鳥の頬に優しく触れて、真剣な表情を浮かべながら言う。

 その言葉には嘘偽りがないことは理解できていた飛鳥だったが、やはりまだ自分が可愛いということにはわかっていなかった。

 そんな飛鳥の顔で勿論輝は彼女の思考を理解することができた。息をついてからその手を頬から離す。

「いつかわかる時が来る。それは必然だ」

「はぁ……」

「キミは面白い。特にテルルンのことが嫌いなところが」

 今になって飛鳥はその言葉の重要性に気付いた。目の前で兄妹の悪口を言っているということに。

 慌てて弁解しようとしたが、輝はクスッと笑っていて怒っている素振りではなかった

「普段だったらテルルンやアカリンのことを気に入らないと思ってる連中とは話さないようにしているけど、キミならそんなことはしないからこれからも安心してテルルンのことを嫌いのままでいてくれ」

 普通とは違うことを言われて逆に飛鳥は落ち着きを取り戻すことができた。

 一時間も輝と話していなかったが、飛鳥は自分のことを輝に全て知られてしまったと思った。




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