部活-1-
飛鳥の家が照の隣の家だと発覚した次の日。
いつもどおり照は決められた時間通りに鳴り響く目覚まし時計をどこかにほっぽり投げて止め、二度寝をしようとした。この目覚まし時計は昨日のものとは違い、陽が壊れている時計に気付いたら変わりのものを置いていくのだ。
丁度その時、家のチャイムが鳴った。
「誰だよこんな朝っぱらから……」
陽ではないことはわかっていた。陽は照の家のスペアキーを持っているため、チャイムなんか鳴らさず勝手に入ってくるからだ。
なので誰か知らない人が朝早くから照のお宅訪問をしているわけとなる。
動くのが面倒な照はそのまま居留守をして過ごそうと思ったが、十秒に一回、チャイムが容赦なく家中を響かせるので、照は応答せざるを得なかった。
寝ぼけ眼でパジャマのまま、念のためチェーンを繋いでから鍵を開けた。
「どちら様ですかー。セールスは勘弁して下さ」「あ、ようやく出てくれ」
扉の前にいた人物を一目見た瞬間に、照の寝起きは完全に目覚めて速攻で扉を閉めた。
途端に、外からその人物が勢い良く扉を開けようとしてきた。
「ちょっと照くん! 開けて下さい!」
「……なんで朝っぱらからお前の顔見なきゃいけねーんだよ」
ガチャガチャと扉とチェーンの音がうるさく、そろそろ同じマンションの人達から苦情がくると思った照は、渋々チェーンを解いた。
「おはようございます。て、照くん」
「……あぁおはよう。朝から最悪な出来事だがな」
「やっぱり、まだ昨日のこと怒ってます……?」
その人物は飛鳥だった。昨日と同じ、北上高校の制服を着、学校指定のバッグを両手で持っていた。
「つーか、なんで俺んちに? 陽と一緒に学校行くつもりなんだろ?」
昨晩、彼女たちはメールアドレスを交換して朝迎えに行くと言っていた会話を思い出しながら訊いてみる。
しかし彼女は少し言いづらそうに答えた。
「えっとですね、朝早くに陽ちゃんからメールがきて、今日、来られなくなったというので」
「ので?」
「ほ、他に、その……友達がいなくて、その……」
段々と言葉が萎んでいき、同時に飛鳥自身も少しショボンとした風になっていた。
これ以上飛鳥に言わせるのもよかったのだが、照はため息をついてから言った。
「……一緒に行くか。方向音痴が一人で学校に行くのは無理だしな」
「う、一言余計です……」
しかし、飛鳥は内心ホッとしていた。もし照が一緒に学校に来てくれなかったらどうしようと思っていたからだ。
「じゃ、面倒だが準備するから、お前はマンションのホールで待ってろ」
「はい!」
「ボクのバカバカバカ! 照くんが普通に支度できるわけないじゃない!!」
「騙されたお前が悪い」
「うわーん! また遅刻だぁぁあああ!!」
あの後、照は二度寝をして飛鳥を放置したのだ。
飛鳥も照の準備が遅いことに疑問を抱いていて、一時間以上待ってようやく飛鳥は再び照の家のチャイムを鳴らした。
もちろん、先ほどと同じことをすることになった。
今度は失敗しないように照の家の前で待機をして、彼が準備しているのを確認するかのようにチャイムを鳴らし続けた。
彼の家に一度入ろうとしたものの、大量のごゴミの山に怖気つき、しぶしぶ断念した。
結果、こうして今照の手を握って走っていた。
「もー! どうしてくれるんですか!! なんで転校生が二日連続で無断欠席しなきゃいけないんですか!!」
「わかったから手ぇ離せ」
「ほんとにどーしたらいいんですか! 不良だって思われてるに違いないですよ!!」
「わかったからそっちじゃねーぞ」
「友達出来なかったら責任取って下さいね!!」
「わかったから今度はこっちだ」
いつの間にか照が主導権を握り、先頭に立って歩き、怒っている飛鳥を先導した。