花火-1-
夏休み後半。
八月になり、お盆の季節が近づいてきた今日この頃。
セミの鬱陶しい鳴き声に太陽の灼熱の如き輝き。気温はぐんぐん伸びていた。
そんな中、瑛太が珍しく照の家に遊びに来ていた。
「あちー……飛鳥ちゃんは?」
「知るか。部活だろ」
二人は瑛太が持ってきたゲームをプレイしていた。格闘ゲームをしており、わざわざアケコンを二人分持ってきていた。
ガチャガチャと音を鳴らしながら、二人は格闘ゲームをして会話する。
「しかしまぁ、ゲームしてれば暑さは紛れるかと思ってたけど、そんなことはなかったな」
「これでもクーラーつけてるからな」
暑さに耐えきれず、ゲームをやめてしまう二人。しかし動くことをやめてしまうとさらに暑さが身に染みてきていた。
「本当にクーラーついてんの?」
「知らん……」
実はエアコンは壊れていて、冷風なんて一切出ていなかった。
それでも、暑さで回らない頭だからそれには気付く余地もない。
「…………アイスでも買いに行く?」
ふと、瑛太がそう提案してきた。
確かに照の家の冷蔵庫にはアイスは入っていなく、食べるためにはこの業火のような日光をモロに受けながら近くのコンビニに行くしかなかった。
「…………じゃんけんで負けたやつが」「不毛な争いをして無駄に体力を減らす愚かな行為はしたくない」
「…………」
しばらくぼーっとしてきた頭で考えた結果、照は携帯を取り出してメールを打った。
アイス買ってこい二人分三分で。
そう打ち込んで送信した相手は妹。
少し待ち受け画面を見つめていたら、すぐに返事が返ってきた。
やだ。
さらに画像が添付されており開いてみると、扇風機の前に下着姿でアイスを食べてご満悦の表情を浮かべている妹の自撮りがそこにあった。
「…………」
とりあえずくたばれと送り返して携帯を放り投げた。
その一連の流れで瑛太は察して、よろよろと立ち上がった。
「二人で行くか」
「…………涼しくなってから」
「いつだよ。あ、そう言えば今夜って祭りあったよな」
照の戯れ言で思い出した瑛太はそう言った。近くの通りで屋台を出して盛り上がり、さらに花火まで打ち上げる意外と大きなお祭り事だ。
祭りになんて興味なかった照はそんな行事を知らず、瑛太の質問には答えられなかった。
「じゃあ夜まで待つか」
「…………現状維持かよ」
結局またゲームを再起動させた。
「お疲れ様ー」
「お疲れ様でした!」
夕方。
学校の更衣室に飛鳥はいた。今が盛んな水泳部の活動日だからだ。
水着から制服に着替え、髪を乾かしていたところに同級生の子に話しかけられた。
「ねーねー夏撫さん」
「はい、なんですか?」
その子はあまり話したことがなかった子で、いつもの敬語がさらに増してしまった。
「今度の文化祭にさー、遊木宮照くんって出るの?」
「え!? えーっとですね……」
痛い話題を突きつけられ、どうやって答えようかと思っていたらその子は段々ヒートアップしてきた。
「あの遊木宮照くんが出るんなら、もー私ヤバイんだけどー!」
「そ、そうですか」
「あの顔で何するのかなー! 喫茶店? 執事!? それとも女装!? あーん、どれも似合うなぁー!」
体をクネクネさせて目をハートにして話している姿は重度の照信者だということにすぐ気付けた。
どうやって照のことを伝えようかと考えてる最中も、照の話題が尽きることはなかった。
結局一方的に照の魅力を伝えられただけで、その子は帰ってしまった。
「(結局言えませんでした……どうしましょう)」
はぁ、とため息をついて飛鳥はとっくに乾いている髪を結ってから帰路に着いた。
その後ろ姿を、ある人物が見ていたことには気付くことができずに。
「あちー」
一方照にメールを返した陽は、そのままアイスをこの環境で食べていた。
美味しそうに食べてはいるものの、絶対にお腹を壊すと誰もが思っている食べ方ではある。
そんな陽にとって極楽浄土な状態になっていると、母親が陽の部屋に入ってきた。
「入るわよーってどんな食べ方よ」
「おー。なんかよーかー?」
やはりドン引きした母親だったが、陽は気にせず扇風機を見ながらアイスを食べていた。
「今日ママとパパは夜遅くまで出かけてくるから、夕食は適当に食べて」
そう言って母親は財布からお金を取り出して陽に渡そうとする。そこに置いてと陽は頭を使って自分の机を指した。
「あ、そうそう。お祭りがあるらしいから屋台で照と一緒に食べな」
「おー」
機嫌を悪くさせた照と夕食を食べるということは高確率で奢らされることになるが、まーいっかと自己解決していた。
「それじゃあいってくるけど、お腹壊さないようにね」
「んー」
気だるげな返事しかしない自分の子供を見て、はぁとため息をつくしかなかった。
そして陽の部屋から出て、父親が待っている居間に行こうとした時、
「あ、そう言えばあの子帰ってくるんだった」
言い忘れたことが一点あったが、まーいっかと母親はまたの機会に言えばいいかと陽には言わなかった。




