合宿 旅館-5-
「さて、そんなことだから生徒会長さん、覗きに行ってきてくださいっす」
「待て待て待て! 一体どこをどうしたらそんなことになったんだ!?」
男子部屋。
既に布団が川の字に敷いてあるその部屋に、男子三人はくつろいでいた。館内に用意されてあった浴衣に着替えて待っていた。
照は左の布団に寝転がり、置かれてあるテレビをつけてなんとなく見ていた。
瑛太と志馬も布団の上に座ってそれを見ていたが、退屈になった瑛太が志馬に無茶ぶりを言ったのだ。
風呂の時間までの暇つぶしである。
「じゃあ先輩、早く行け」
照もテレビを見飽きたのか、珍しく瑛太の暇つぶしに乗る。
そのことが意外だと思った二人だったが、志馬はいやいやと手で否定する。
「遊木宮まで何言ってるんだよ!」
「照もこう言ってるし、ここはやるしかないっすよ」
「だからなんで行くことが確定してるんだよ!?」
ちゃんと反応してくれる志馬がとても面白くて、二人はさらに志馬をいぢめた。
「先輩、なんのために来たんだよ」
「みんなで合宿だろ!」
「女子がお風呂入ってるってことは、漫画やゲームだと一択っすよ」
「ここは漫画やゲームの世界じゃないだろ!?」
「じゃあ想像してみろよ、初歌先輩の裸」
ど真ん中の剛速球を照が投げてくるとは思ってもいなくて、志馬はモロに直撃してしまった。
そして思わず初歌の裸を想像してしまった。
「な、なななななななななんでそこで初歌の名前が出てくるんだよ!?!? つか想像できるわけないだろ!!!」
顔を真っ赤にして狼狽えながら否定する志馬。二人は察したかのような表情を浮かべる。
「じゃあ想像するために確かめに行きましょう」
「た、確かめられるわけないだろ!!」
「たしかここ、覗ける場所があるって先々輩が言ってたっす」
「の、覗かねーからな!!」
頑なに覗きに行こうとしない志馬に、二人は顔を合わせてある作戦を実行した。
「じゃあ、俺たちだけで見に行くか」
「え」
急な引きに志馬は一瞬面食らってしまった。
「そうだな。こんな優柔不断なやつなんか置いていくか」
そして更に照が思ったより乗り気で、二人が立ち上がってそのまま部屋から出ていこうとする。志馬の静止も虚しく、二人はそのまま部屋から出ていってしまった。
一人残されてしまった志馬は、なんだか無性に居心地がわるく思えてきて、二人の後を追おうと部屋を出ようとする。
しかし、既に二人の姿は見えなくなっていて、シーンと静かな空間になっていた。
「ゆ、遊木宮……? み、箕来……?」
急に寂しい感情に包まれて、いてもたってもいられなくなった志馬は思わず部屋から出てしまった。
二人を探しに旅館を回っていたら、自然とゆの字が書かれた暖簾が色違いで二つ並んで垂れているところに辿り着いていた。
「…………そうか! あいつらもしかして風呂に入りに行ったんだな!」
何やら自分の中で決めつけたらしく、なるほどなるほどと、うんうんと首を動かしていた。
そして、自信満々に志馬は青の暖簾が垂れている方へ入って行った。
「……で…………ねー……」
「…………だ……」
中に進んでいくと何か話し声が聞こえてきて、やっぱりと思って足を速めた。
「お前ら風呂入るならそう言ってく……れ、よ…………」
堂々と脱衣所まで来た志馬が目にしたのは、想像していたものと全然真逆だった。
綺麗で真っ白な肌。先ほどまで浸っていたお風呂の滴が体中に張り付いていて、さらに蒸気が混じってしっとりとした体。
一人はバスタオル一枚だけ胸辺りまで巻いてドライヤーで髪を乾かしており、もう一人は白で可愛らしい猫の顔がプリントされているパンツを履いて頭をワシワシと拭いていた。
その二人も志馬の存在に気付き、何秒かこの状況を受け止めきれずに停止していた。
そして脳が情報を整理できた時、反射的に初歌と此恵は悲鳴をあげた。
「まさかしまくんが嵌るなんてな」
「ほんと見事に引っかかって面白かったっす」
露天風呂。
悠里と渚、陽と瑛太に照、そして志馬の六人は揃ってお風呂に浸かっていた。
ここには露天風呂しかなく、さらに混浴であるため女子と男子は別の時間に入るのが普通だった。
が、男子がいても気にしないという悠里と渚と陽は男性陣と一緒にこうして入っているのだ。
「本当に暖簾を入れ替えただけなのに引っかかるなんてね」
「去年は誰も引っかからなかったのになー」
「流石にバカとしか思えねーよ」
「お前らなぁ……!」
思わず悠里たちの方を向こうとした志馬だったが、裸であることに気付いた彼はまた勢いよく反対側を向いた。
ウブな反応だなぁとみんなが思っていると、志馬はここで反論してきた。
「お、俺よりあの二人に失礼だろ! そ、その……俺なんかに裸見られるなんて」
あの後すぐに志馬は脱衣所から疾風のような速さで飛び出して行って、出口で待っていた照と瑛太に笑われていた。
結局あの二人は志馬に顔を合わせられず、気まずそうに出ていったが。
「あぁ、あの二人には後でお詫びとしてしまくんの体を見てもらうから」
「え、ちょ、えぇええ!?」
予想外の返しに志馬本人が驚きを隠せないでいた。
「目には目を、歯には歯を。裸には裸を、だ」
「さ、流石にそれはマズイだろ……」
「どこがマズイのかわたしに教えてくれるかな、志馬?」
割とマジな目付きの渚に怯え、さらに居心地がわるく感じてきた志馬に他のみんなが追い討ちをかけてきた。
「じゃー恥ずかしくないよーにー、部屋でやろー」
「それこそもっとダメだろ!?」
「あ、じゃあ生徒会長さんが夜、部屋から出ていっても気にしないっす」
「なんで敢えて夜にいこうとさせるんだよ!?」
「先輩、避妊だけはしろよ」
「ば!? ばばばバカやろーッ!!」
体全体がのぼせて真っ赤になるまで、志馬いぢりが五人の間で続いた。




