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合宿 旅館-4-

 四組目は照と陽の兄妹ペアだ。

 旅館に入ってみるとひどく落ち着いた雰囲気で照たちを迎えた。薄暗くて肌寒い、洞窟の中に入ったかのような感覚。

 兄妹は横に並んで旅館内を歩いていた。

「そーいやーさー。オレとにーちゃんが二人っきりになったのって久しぶりだなー」

「そうだな。大抵あいつがいたからな」

 あいつを思い浮かべてしまい照は嫌な表情になるが、陽はあははーと笑う。

「ほんとーにべったりだよなー、あすかっちー」

「こっちはいい迷惑だ」

「まーこっちに来て最初にできた友だちだしー、よかったじゃんーかわいー女の子が友だちー」

 陽の茶化しは頭に一発拳で殴って対応し、ふと照はあることに気付いた。

「……あいつ、引っ越す前の話をしないよな」

 飛鳥自身の過去の話を聞いた覚えがないのだ。

 失敗談やわからない知識の披露は散々知っているが、自分からほとんどその話をしていない。

「そーいやーそーだなー。オレもきーた覚えねー」

「……まぁ、明らかになんかあるけどな」

 大抵は想像できてしまうが、本人が言わないということは知られたくないのだろう。

 だからそれ以上は踏み込まない。

「でもさー、にーちゃんの話きーたら自分のことなんて軽く思えると思うけどなー」

 隣で見てきたあのことを鮮明に覚えている陽が笑いながら言う。今は陽にとっては笑い話になっているようだ。

 が、照はその真逆だった。今も尚それを引きずってここまで来ていた。

 それくらい照に影響を及ぼしたことだった。

「言わないならいいけど。俺だって言わなかったことだし」

「そーだなー。にーちゃんだしなー」

 また頭に一発。それでこの話は終わった。

 しばらく歩いたところ、また唐突に陽が話を振ってきた。

「こんなことにーちゃんに訊くのもなんだけどさー」

「じゃあ訊くなよ」

「にーちゃんってさー、恋したことあるー?」

 陽の口から信じられない単語が出てきて照は唖然として止まってしまった。あの陽が女子高生みたいな会話をする時点で世界線を疑うレベルなのに、しかも恋の話である。

 恋の話には無頓着で無縁で無理な陽なのにだ。

 今ここにいる陽は陽のドッペルゲンガーじゃないかと言っても信じるほどだった。

「…………急に、どうした?」

 ようやく出た言葉を噛んだりどもったりしないように精一杯だった照だが、陽はそんな照のことをお構いなしに続けた。

「あのさー、よくわからねーんだよねー。友だちにきーてみたらさー、それは恋って言われてさー」

「なら、恋なんじゃねーの?」

「だからわかんねーんだよー。恋なんてしたことねーからさー」

 頭の後ろで手を組んで、まるで他人事のように陽は言った。

 でも、陽自身悩んでいる。わからない感情の正体を。

 こんな陽を照は初めて見た。ずっと一緒にいた照がそう言うのだから間違いはない。

 意外な陽の姿を見れた照はその先が気になってしまった。

「じゃあどんなやつなんだよ。お前が恋、っつーか気になるやつ」

「前にさー、オレにかわいーって言ったこーはいー」

「へぇ」

「あいつと初めて会った時からさー、面白いやつだなーって思ってたんだけどさー、かわいーって言われてからなんだかわかんなくなったんだよー」

 それ以降、陽はあまり部活に顔を出さなくなった。照にとってのそれは割といつも通りだったため、あまり気にならなかった。

 それからというと、陽はあの後輩と廊下などですれ違うとどことなく避けてしまっている。

 だから陽はまず女友達に相談したのだ。

「よくわかんねー。双子のにーちゃんでもやっぱ無理かー」

「双子だからってなんでもわかるわけじゃねーからな」

「あははー、違いねー」

 結局何も解決しないまま、台所へとたどり着いた。



「え、私の出番? 一人だし私だからこういうのには向いてないんだ」

「なんの話? つか誰に話してんの?」

 全員無事終わって、改めて旅館に全員で入った。

 今度は電気が付いていて、掃除を隅々まで行き届いており、清潔感溢れる内装だ。

 さっき同じものを見たはずなのに、こうして見ると思わず息が漏れていた。

「旅館七不思議の一つ。雰囲気が変わる」

 悠里がまた七不思議を披露するが、みんなはそれを身に味わったため、説明は不要だった。

「さて、お風呂を先にしようか。夕飯はその後ということで」

 悠里の提案に異議を唱える者はいなかったが、代わりに瑛太が追加をしてきた。

「じゃあ先に女性陣入っていいっすよ」

「ん、そうか? なら遠慮なく頂かせてもらおう」

 部屋に荷物を置いてから、大浴場へと女子たちは向かって行った。




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