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合宿 旅館-3-

「…………」

「…………」

 二組目は渚と志馬の幼なじみコンビだった。

 コンビが決まった時に、二人して嫌な顔を互いに向けていた。最近になって渚が志馬への風当たりが強いからである。

 こんなんで大丈夫かと思っていた志馬だったが、旅館に入った途端渚の態度が激変した。

「〜~~っ!?」

 怖いものが苦手と公言していた渚が、旅館の内部を見て怖がっていたのだ。

 内部は真っ暗闇になっていて、埃が充満してクモの巣やらボロボロになった絵画などが嫌でも目に入る。

 それらを目の当たりにした渚は隣にいた志馬の身体に勢いよくしがみついてきた。

「ちょ!? いたたたたたた!! 痛い痛い痛い痛い!!」

「無理無理むりムリむり無理むり!! かえりたいカエリタイ帰らせてお願い!!」

 力任せに志馬の身体を締め付けているため、志馬は体勢と痛みで動けなかった。

 すでに涙目になっていて、今にも精神が崩れ落ちてしまいそうだった。

「お、落ち着け! わかったから落ち着けって!!」

「さゆりぃいいい!! さゆりぃぃいいいい!!!」

 志馬の声も届かず、ここにいない者の名前を呼び続ける渚。

 これは前のペアとは違った意味で普通とは反応が違っていた。

「怖くないから! なぎちゃん俺を見ろ!!」

「っっっツ!?」

 無理矢理渚を引き剥がし、その肩を掴んで自分の顔を見せるようにする。

 目を思いっきり強く瞑っていて、肩を小刻みに震わせながら俯いていた。そんな渚の姿はまるで肉食動物に怯える小動物のようだった。

 彼女が落ち着くまで志馬は待ち続けた。

 やがて、時間を十分に使ってようやく渚の目がゆっくりと開き始めた。

 恐る恐るといった様子で、志馬の言葉を信じるように彼の顔を見ようとする。

 が、その顔の後ろには、渚が見たくないモノがジッと彼女を睨みつけていた。

「いやああああああああああああああああオバケええええええええええ!!!」

 それを見た瞬間、そう叫んで志馬を全力で押して後ろに倒した。

 何が起こったのかわからないまま、志馬は埃まみれの玄関に倒れてしまう。

「いってぇええ!? なぎちゃん、一体どうしたんだよ!」

「開けてええええええええええ!! お願いだからああああああああ!!! さゆりぃぃいいいいいい!!!!」

 開かない扉を開けようと一心不乱になっている渚は、いつもの彼女の面影など皆無であった。



「今回はよろしくな、飛鳥ちゃん」

「こちらこそよろしくお願いします、瑛太くん」

 三組目は瑛太と飛鳥のコンビだった。

 二人は普通に落ち着いた様子で旅館の中に入っていく。

 旅館内は薄暗く、懐中電灯を使わなくても先はうっすらと見えるほどだ。

 内装も埃が被っているものと、被っていないものもあってなんだか不思議な空間が出来上がっていた。

「飛鳥ちゃんって怖いの苦手じゃないの?」

「前までは怖かったです。でも怖いことに慣れたので」

「……照のせいか」

「あはは……」

 否定をしない飛鳥。彼への恐怖心はとっくに捨てたはずだったのだが。

 二人揃って怖いものは嫌いではないタイプという、企画壊しの人達である。

「そう言えばさ、飛鳥ちゃん」

「なんですか?」

 しばらく歩いたところで瑛太が飛鳥に問いかけた。

「照とまだ付き合ってないの?」

「ぶっふー!?」

 突然の突発的な質問だったため、飛鳥の思考がショートして吹いてしまった。

 そんな飛鳥の反応を見て、まだかと悟った。

「いい、いいきなりなんででですか!?」

「どう? 正直なところ、照のことどう思う?」

 グイグイと飛鳥に問いただそうとする瑛太に、飛鳥は顔を赤くしてそっぽを向く。

「照くんなんて大嫌いですよ! いつも言うこと聞かないですし、やる気を出してくれないし、掃除手伝ってくれないし!」

「うんうん」

「料理作ろうとすると作るなって言ったり、洗濯物をそのまま床に置いてたり……っつ!?」

 いつの間にか色々喋っていた自分に驚きつつ、口を手で押さえる。

 そんな飛鳥をにやけ顔で瑛太は追撃した。

「へぇ~。仲良いじゃん」

「そ、そんなことないです! それに、ボクなんかじゃ全然釣り合わないですよ!」

「そんなことないと思うけどなぁ」

 たまに耳にする飛鳥の謙虚な言葉。本当に自分のことを可愛いと思っていないらしく、その手の褒め方は通用しない相手。

 自分自身をそんなに卑下しなくても、といつも瑛太は心の中で思っていた。

「まぁあいつからは絶対に告白しないだろうから、飛鳥ちゃんから言うしかないよ」

「だから絶対に言いませんし照くんなんて大嫌いです!!」

「あはは。報告待ってるよ」

「うぅぅ……」

 飛鳥の反論など右に流して目的地へと向かった。

 納得いかない様子の飛鳥だったが、仕方なく彼の後ろをついていった。





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