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合宿 旅館-2-

「よし、できたぞ……ってお前たち何してるんだ?」

「絶対に負けられない戦いに備えてるんすよ」

 あみだくじの準備が終わり、いよいよ運命の時がやってきた。

 この旅館の経験者は一人では絶対に入りたくないという気持ちが溢れていた。その気持ちが初参戦者たちにも伝わっており、激戦を想定されていた。

「それじゃあ一人ずつ選んでくれ」

 全員一人になりたくないと願いながら、線の上に名前が載る。

 そして、結果は。



「漆黒の鎧を纏いし者よ、我を呼びし波動を感じる」

「ほとのセンパイはちゃんと道覚えてるんですね! 此恵は忘れちゃいました」

 一組目は初歌と此恵という少し珍しいコンビだ。

 接点はあるものの、これといって仲がいいといった関係ではない。

 しかし、気まずいという感じは両者にはなく、仲良くなりたいと二人は思っていた。

「(ゴスロリの服を持ってて羨ましい……)」

「(言い方や行動がなんだかかっこいいです! 大人っぽいです!)」

 二人を含めたみんなは最初に旅館の一階の間取り図を見せてもらい、台所の位置だけを教えてくれた。

 初参戦者と経験者との差が始めはないが、指令の札からは全体像を大まかに知っている経験者の方が有利である。

 従って、このペアは時間を多くもらった。

「一応時間も時間だからな。予定してた時間を過ぎたら次のペアを入れるから」

 悠里はそう言ってから二人の背中を押した。

 時刻は夕方のはずなのだが、室内に入るとそこは外とは比べものにもならないほどの暗闇だった。

 電気は勿論点いていなく、シーンと静まり返って不気味さを強調している。悠里から借りた懐中電灯を使ってようやく前が確認できるほどだ。

 だが二人はこの手のモノを怖いとは思ってはいなく、反応としては面白くはないものだ。

「それにしても綺麗ですね、ここ」

「うむ。まるで先刻清めたと言っても過言ではない」

 この状態には何も思わず、別のことに興味を持ってしまっていた。

 しかし用意されてあったスリッパを使って屋敷を歩いているが、そのスリッパや廊下、壁、天井をよく見てみると埃がついていない。

 それが普通の反応だとかえって不気味と捉えるのだが、二人はそれ以降それすらも興味を失ってしまった。

「そろそろ台所ですか?」

「そのようだ……うむ。着いたぞ」

 歩いた先にある扉を開け、そこは初歌が言った通り台所であった。が、当然暗闇のままだ。

 ここからどうやって指令の札を探そうかと思った時、

「ほとのセンパイ! あそこに……」

 懐中電灯の光を台所内に一周させた途中に、何か光るものがあった。

 それを此恵は見過ごさずに初歌に伝えた。初歌はまた光を動かしてそれを見つける。

 それはコインが貼ってある紙だった。

「あれ、ですか?」

「確認しよう」

 二人揃ってその紙のあるところへ向かう。

 初歌が紙を手にとってみると、やはりそれは当たっていた。

「指令ですね! なんて書いてあるですか?」

 光を紙に照らし、此恵と一緒に見れる位置に動かす。

 そこに書いてあったものは、

「「相手のことを正直に言え?」」

 一字一句正確にそう書いてあった。

 言葉通りの意味なのだろうとわかってはいたが、何故それを今ここでやらなければならないのか、という疑問が頭に浮かんだ。

 ここも普通は気味が悪いと思うところなのだが、二人は指令だから仕方ないと何も思わずに従っていた。

「あ、じゃあほとのセンパイからいいですよ」

「我からか? ならばそうしよう……」

 先輩ということで初歌に先を譲るものの、今になって気付いたことがあった。

「(あれ、これってなんだか凄く恥ずかしいことじゃないですか?)」

 それに気付いたのは此恵だけのようで、初歌はなんて言おうか悩んでいるところだった。

 先輩に自分のことをなんて思われているのか、少し不安になりながらも、初歌の答えを待った。

 やがて考えがまとまったのか、顔を少し赤らめて後輩に自分の思っていることを伝えた。

「……漆黒の鎧を持っていて羨ましい」

「……え?」

 思わず聞き返してしまうほど、此恵にとって意外な答えだった。

 答えた本人も、聞き返されたことによって更に顔を赤く染めていた。

「わ、我は漆黒の鎧を持っておらぬから、沢山所有している漆黒の鎧を纏いし者が羨ましいのだ……」

 初歌は中二病を患っているはずなのにゴスロリの服を一着も持っていない。あるのは中二病の男子がよく着る黒い服ばかりなのだ。

 だから此恵がたくさん持っているゴスロリの服が羨ましいと感じていた。

「…………此恵は、ほとのセンパイのことを大人の女性みたいで羨ましいって思ってたです」

「大人の女性……?」

 急に此恵は、初歌のことをどう思ってたのかを話し出した。突然のことにも関わらず、初歌はちゃんと聞いた。

「でも、ほとのセンパイって此恵と同じで、ゴスロリに憧れてたですね」

「う、うむ……」

「なんだか親近感が湧いて、可愛いって思えたです!」

「かか、可愛い!?」

 予想外の単語が出てきたことに驚きを隠せないでいた初歌だったが、此恵のトークは止まらなかった。

「此恵、一緒にゴスロリ服買いに行きたいです! あ、良かったら貸すですよ!」

「い、いや、その……えっと……」

「約束です! 合宿が終わったら行くです!」

「う、うむ……」

「嬉しいです! ありがとうです!!」

 可愛いと言われた懐かしさに浸ることができずに、此恵と服を買いに行くことになってしまった。

 が、そんな強引な彼女でも、買いに行くことが楽しみそうに笑っている顔を見て、初歌は不思議と笑みが溢れていた。





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