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合宿 海-4-

「すっかり遅くなってしまいました……」

 飛鳥はトイレから出た後、更衣室近くで小学生と思われる女の子が泣いていたため、一緒にその子の母親を待っていた。

 偶然近くにいたライフセイバーが事情を聞いてアナウンスを利用し、母親と無事再会させることができた。

「みんな待たせてますよね……」

 急いで目的の場所へ行こうとした時、不意に横から声をかけられた。

「そこの嬢ちゃーん、一人?」

 自分を呼んでる声がしたが聞き覚えのない男性の声だったので、不思議に思いながら顔を向けてみる。

 そこには知らない男性が二人いた。

「ねぇ一人? オレらと遊ばない?」

「水着姿可愛いねー。高校生?」

 そう言いながら飛鳥の元に近づいてくる。髪を派手な色に染めて堅いも良い。所謂不良だった。

 どうしてボクに声をかけて来たんだろう、と思ってすぐにあることに思い出した。

 着替えの時に悠里が冗談半分で、ナンパされそうなメンバーだなと笑ったことを。

 現状、今の飛鳥の格好はピンク色のホルダーネック型のセパレートで、オレンジ色のミニスカートを穿いているような水着を着ているものだ。

「(で、でもまだナンパとは決まった訳じゃ……って最初に遊ばない? って訊かれてたじゃないですか!?)」

 頭が混乱して返事をしないで黙っていると、男性二人が笑いながら飛鳥にさらに近寄ってくる。

「あれ、もしかして怖がっちゃってる?」

「お前のせいだろよ」

 優しい声音で飛鳥に話しかけるが、そんなことは頭に入ってこなかった。

 どうしよう、とパニックになってる頭で必死に考えようとするが、男性二人にとって飛鳥の今の行動は無視ととったため、強行に入ろうとする。

「嬢ちゃん、シカトはよくないよー」

「ほら、一緒に来てよ」

 無防備となっていた腕を強引に掴まれ、その痛みに思わず苦痛の声を出してしまう。

「(た、助けて……!!)」

 知らない異性の大人に腕を掴まれて、囲まれて恐怖が倍増していく。

 声なんて出そうとしても全く出なく、抵抗も体の震えが止まらなくてできない。

 このままだと自分はどうなってしまうのか、と最悪な考えが生まれようとした時、

「その手を離せ!!」

 別の声が聞こえた。聞き覚えのある声。

 今の飛鳥にとってその声は、まるで天使の救いのように思えた。

 男性二人にも聞こえていたようで、明らかに敵対心丸出しでその方を向く。

「(て、照く……)」

「彼女、嫌がってるだろ!」

 そこにいたのは飛鳥の思っていた人物ではなく、生徒会の二人組、志馬と初歌だった。

 その現実に、飛鳥の心にチクッと痛みが走った。

 わかっていたはずだった。助けてくれている声が彼のものではなかったことを。

 それでも、何故かわからず飛鳥は彼のことを思ってしまっていた。

「なんだよ、お前!」

「やんのかコラ!」

 先ほどの優しい声音とは真逆の、厳つい声を放つ男性二人の興味は完全に志馬たちに移り、飛鳥の腕は解放された。

 と同時に、飛鳥はその場に座り込んでしまった。

「……どうする? こっちに意識向けたけど」

「我の深淵魔術の詠唱が完了していない。時間を稼いでくれ」

 何も作戦なんて考えていなかった二人は小声で相談するも、男性二人はズンズンと志馬たちに近づいてきた。

 喧嘩なんて得意ではなく、ましてはあんな喧嘩の強そうな二人相手にそれをやるのはまさに自殺行為である。

 だが相手はやる気満々で、ナンパの邪魔をしやがってと指の骨をポキポキと鳴らしていた。

 仕方ない、と腹を括った志馬は初歌を巻き込まないように自分の後ろに下げ、ファイティングポーズをとろうと拳を握った瞬間、

「っあだ!?」

 後頭部に軽い痛みがやってきた。

 痛む箇所を片手で抑え、まさか初歌がやったとは思えず、前の二人を少し気にしながら振り向いてみると、

「何喧嘩売ろうとしてんだよ」

 そこには初歌ではなく、片手に持ってる缶を捨てにきた照がいた。

 先ほどの痛みは、この缶で志馬を叩いたものによる衝撃だった。

「てる、くん……」

 男性二人の隙間から見える彼の姿を見て、飛鳥は安心しきっていた。志馬たちが助けに来た時にも安心を感じたが、今はそれ以上の気持ちだった。

 なんとなくだったが、しかし何故こうなったのかはわからなかった。

「遊木宮! 丁度よかった!」

 頭を叩かれて少し落ち着いたのか、照に助けを求めようとする。

 が、照は名字を言われて顔をしかめ、そのまま立ち去ろうとする。

「ちょっ、待てって!」

「騒ぎになると迷惑だから喧嘩だけはすんな。素直に砂浜に額突っ込んで謝れ」

「我が闇を照らす者よ、奥を見るのだ!」

 初歌があわてて男性二人の後ろにいる飛鳥のことを指さす。そのことでようやく照はここに飛鳥がいることを知り、そしてなんとなくこの状況を理解した。

「あ? にーちゃんもこいつらの仲間なのか?」

 志馬と会話しているということで男性二人は照を敵対視して喧嘩を売ろうとする。だが照は黙ったまま、じっと男性二人を睨みつける。

 やがて、何事もなかったかのようにスタスタとこの場から去ろうとしていた。

 その行動に、みんなは驚きを隠せないでいた。

「ちょ!? おい!」

「おい、みんなお前のこと探してるぞ」

 志馬の言葉を無視して照は飛鳥に呼びかける。

 急に自分に声をかけられたため、えっ、と飛鳥は聞き返すしかできなかった。

「早く戻れよ、方向音痴」

 そう言いつけて、ふと渚に言われたことを思い出してムカついた照は持っている缶を飛鳥に向けて思いっきり投げた。

「え」

 それは綺麗に真っ直ぐ飛鳥の額に向けて飛び、何が起こっているか飛鳥にはわからないまま、それは額にぶつかった。

「っ痛!?」

 ぶつかった衝撃で少し後ろにつんのめるものの、痛みで赤くなった箇所を両手で押さえて、涙目になって立ち上がる。

「な、何するんですか!!」

 何故缶をぶつけられなければならなかったのか、飛鳥には理解できずに怒りがこみ上げてきた。

「うるせぇ」

「待ってください! ちょっと照くん!」

 そのまま来た道を戻ろうとする照の背中を、飛鳥はぶつけられた缶を拾ってから走って追いかけた。

 この謀ったかのような一連の流れに、四人はただ呆然と見届けることしかできなかった。



「一件落着、だな」

 その後、照と飛鳥が一緒に帰って来たのを確認した渚がみんなの携帯に連絡を入れた。連絡をした直後、渚は意味深な笑みで照を見ていたら頭を叩かれたが。

 そしてすぐに全員集合し、改めて飛鳥は謝った。

「ごめんなさい。迷惑かけてしまって……」

「迷子の面倒を見てたのなら仕方ない。でもまさか本当にナンパされるなんてな」

 自分の言ったことが本当になってしまい、少し自己嫌悪してしまう悠里。そのせいで意識してしまい、絡まれたと思ってしまったからだ。

「やったじゃんあすかっちー。ナンパされるなんてさー」

「で、でも正直怖かったです……」

 先ほどのことを思い出した飛鳥はブルっと身体を震わせた。

「厳つい人だったし、怖かったのもしょうがないって」

 結局照と飛鳥が去った後、男性二人は冷静になったのか志馬たちに何もせず、そのままどこかに行ってしまった。

 ただのバカップルかよ、と言い残して。

「そんなこと忘れるように、今思いっきり遊ぼうぜ」

 瑛太の提案は、みんなにここがどういう場所なのかと思い出させた。

「よし! 海が私たちを呼んでいる!」

「いこー、あすかっちー」

「あっ、一人で歩けますから!」

「此恵が一番乗りです!」

「全ての原点とも言える場所……その莫大な存在、我に見せてみよ!」

 渚以外の女子は揃って海に向かって走り出した。

 一人、海に向かおうとしない渚は彼女らに手を振って送り出していた。

「んじゃ、俺も行きますかな。生徒会長さんはどうする?」

「んー、それじゃあ俺もいこうかな」

 照以外の男子も揃って海に向かって歩き出した。

 一人、海に目も向けようともしない照はブルーシートに横たわって昼寝をし始めた。

「荷物番ならわたしがするわよ」

 先ほどから読んでいる本に目を通しながら、渚は照に海に行ってくればと催促する。しかし照はもう耳を貸す気がないらしく、わざと渚に背を向けるようにして寝転がる。

 そうですか、と納得した渚はこれ以上何も言わずに本に集中した。

「あははー、冷たいー」

「気持ちいいです!」

 そんな二人を他所に他のみんなは海を楽しんでいた。

「来い! 其方の全てを呑み込む一撃、受けて立つ!」

 膝辺りの深さのところまで行った初歌が、やってくるお腹ほどの高さの波に挑戦状を叩きつけていた。

 叩きつけたはいいものの、それをモロに受けて波の意外な衝撃に思わず尻餅をついていた。

「や、やるではないか……しかし! 油断していなければ!」

「うたちゃん隙あり!」

 そんな楽しそうにしている初歌の頭に、悠里は海水を浴びさせる。

 うなぁ!? と変な声をあげ、予想外の襲撃に目が点になっていた。

 さらに先ほどと同じ波がやってきて顔面に海水がかかってしまい、今度は仰向けに倒れてしまった。

「まだまだ修行が足りないんじゃないのか? うたちゃん」

「ぐぬぬ……」

 己の未熟さに恥じて、初歌は悠里に反論できないことが悔しくて立ち上がる。

「わ、我の第二の姿を見せる時が来たようだな……封印されし魔族の力を解き放つ!」

「ふふふ。なら来るがいい!」

 ある物語のラスボスのような風格をみせるように悠里は初歌の前に立ちはだかった。初歌も、悠里を倒すために決めポーズをとって挑もうとする。

 そして、二人の仁義なき海水のかけあいが始まった。

夕陽に染まる地平線(アクマノササヤキ)!」

「それそれ!」

輝く月光の導き(テンヘノツバサ)!!」

「まだまだ!!」

 かけ声は兎も角、二人は全力で楽しんでいた。





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