合宿 海-3-
男性陣はすぐに着替え、場所取りも終えて女性陣のことを待っていた。
悠里に手渡された大きめのブルーシート二枚を砂浜の上に敷き、一枚は荷物置き場にし、もう一枚に男性陣は座ってた。
「生徒会長さん、女子の水着楽しみっすね」
瑛太はトレードマークのタオルを勿論外さないが、何故かその上にサングラスを付けていた。
でもそんな格好でも不思議と似合っていた。
「ちょ、そういうのは遊木宮とやれよ……」
志馬はただ海パンだけの一般的なスタイル。文化系特有の肉があまりない、やせ細って体から浮き出ている骨が直に見えている。
「あー、こいつこういうのに興味なくて。だから生徒会長さんに聞いてみたんすけど」
そんな照は上に一枚白のラッシュガードのパーカータイプを着てチャックを全開にして、先ほど買ってきた炭酸を飲んでいた。
「だからって消去法で俺に聞いてくるのもな……ま、まぁ楽しみだけど」
「誰のが楽しみっすか?」
「随分聞いてくるね……」
「楽しいっすから」
男子特有の会話ができて楽しくなってきた瑛太は志馬にどんどん踏み込んでくる。
そんな男子三人を、他にこのビーチに来ている人達からすると、
「イケメン……」
「赤褐灰。ごちそうさまでした」
「どうしよう、逆ナンする? しちゃう!?」
「素敵……」
といった女子限定の目の保養となっていた。連れの男子には憎らしい視線が送られているが。
勿論三人はそんなことを気にしないでいた。
「待たせたな」
そんな男性陣の前に、着替えで遅れた女性陣が揃ってやってきた。
悠里の声だと気付き、三人は女性陣を見てみる。
「パラソルを借りてきたぞ」
肩にパラソルを担いで持ってきていた悠里は、普段とは違いポニーテールにしていて、髪の色と同じ黒のホルターネックの水着を着こなしていた。
「流石部長。ビキニっすか」
「どやぁ」
「胸ないのにか」
「テルテル、セクハラとして訴えてやるぞ?」
若干気にしている胸の大きさを指摘され、軽くげんなりとする悠里。
その鬱憤を晴らすようにブルーシートの近くの砂浜にパラソルを刺した。
「こばやセンパイの胸は綺麗です。羨ましいです」
そんな悠里にフォローを入れた此恵の姿は、長い髪を後ろにお団子のように纏め、フリルがたくさんついている可愛らしい水着だった。
「此恵ちゃんもビキニなんだ」
「ビキニっぽくないですけど、此恵も大人になりましたですから!」
「どこらへんが大人なんだよ、ちんちくりん」
「おっぱいはこれから大きくなるです!」
子供と馬鹿にされたと思った此恵はプンスカと怒りを露にするが、みんな気にしてなかった。
「ふ、我の聖戦専用装備に恐れ慄くがいい」
カッコイイポーズを決めながら初歌は参上した。金髪をなびかせ、黒いマントの代わりに薄地のマフラーを纏い、紺色のスクール水着に眼帯と包帯という予想の斜め上の姿だった。
「まさかのスク水って……」
「な、なんで俺を見るんだよ!?」
チラッと瑛太が訝しげに志馬を見るものの、誤解だと言い訳する。
が、そんな言い訳を一撃で粉砕したのが幼馴染みたちだった。
「あれ〜? しまくんは確かスク水好きって言ってたよな〜?」
「いつ言ったよ!?」
「中学の時に言ってたって、着替えてる時に初歌から聞いたわ」
悠里の隣に立った渚の格好は、ビキニの上に水色のTシャツを着て、ホットパンツ型の水着という、海には浅いところしか入らないといったスタイルだった。
渚の意外な胸の大きさに思わず志馬は顔を赤らめながら目を背けてしまう。そんな彼の男の子な反応を見て瑛太と悠里はニヤニヤしていた。
「そそそ、そんなの子供の話だろ!!」
今もまだ子供のはずだが、志馬はなんとしてでも否定しようとする。そんな志馬の態度に、初歌が涙目になって言う。
「嫌い、なのか……?」
「なぅくっ!?」
「あー、泣ーかしたー」
初歌の後ろからひょっこり現れたのは陽だった。陽の水着姿は照のとまったく同じで、チャックを上までちゃんと閉めていた。
こうしないと周りから照と陽を間違えてしまい、両者共に変なレッテルを貼られるからだ。
「いーけねーんだー」
「女の子泣かすのは良くないぞ」
「そうよ」
「ダメじゃないですか、会長先輩」
女子たちから非難の言葉を浴びて、どうすればいいんだよと言った顔付きで男性陣を見る。男子二人も女子に賛同らしく、認めろと聞こえてくるばかりの目線だった。
そんな四面楚歌になりながら、志馬はええいと奮起して初歌の前に立つ。
「あの、その……悪かったって。泣くなよ」
「ぐすん……我のこの姿、好き……?」
涙目で上目遣い、トドメに不安そうな表情をさせられたらもう答えは一つしかなかった。
「…………す、好きに……決まってんだろ……」
「……我が友よ…………!!」
その答えを聞けて安心した初歌が、思わず志馬に抱きついてしまう。
スクール水着一枚越しに感じる彼女の豊かな胸と、この状況に恥ずかしさを感じ、離れろよと彼女の肩を掴んで放す。
志馬から離れた彼女はもういつもどおりの彼女に戻っていた。
「これでより強い契を結ぶことができた……故に、我は絶対王者の上を行く!!」
決めポーズをして、中二病全開で志馬に応える。初歌はこうでなきゃな、と心の中で思っていたら、
「見せつけられたね」
「青春だな」
とみんなにニヤニヤとされていた。
「お前らのせいでこうなったんだろ!」
志馬がなんと言おうとも、帰宅部メンバーはほのぼのとして二人を温かく見守っていた。
「そう言えば飛鳥ちゃんは?」
ひと通り志馬をイジったところで、瑛太は姿が見えない彼女の名前を言う。
そう言えばそうだな、とみんなもその姿を探す。
「トイレに行ってから来ると言ってたが、それにしても遅いな」
携帯に連絡を入れてみても陽が代わりに持ってきた飛鳥の荷物の中にあったため、無駄になった。
そこに突然、迷子を知らせるアナウンスがビーチに響きわたる。
それで不安が募り、心配になったみんなは探そうと提案する。
「とりあえず二人組になって探そう。あと、携帯をちゃんと持って行くぞ」
瑛太と此恵、悠里と陽、志馬と初歌のペアで辺りを探し始めた。
残った照と渚はこの場所で待ってることになった。
「心配?」
みんなが散った後、渚が照に聞いてきた。二人は日差しから逃げるように悠里が刺したパラソルの下に一緒にいた。
渚のそんな疑問に、はぁ? とイラついたように言う。
「ただの方向音痴だろ」
「ナンパとかされてたりしたら?」
「なんで俺がそんなこと気にしなきゃいけねーんだよ」
「誘拐とか」
執拗に絡んでくる渚にイラつき、残っていた炭酸を飲み干して立ち上がる。
「捨ててくる」
「ごゆっくり」
手をヒラヒラさせて、荷物に入れてあった読書セット一式を取り出す。
渚の考えていることに更にイラついて、照は舌打ちをして海の家に向かった。




