合宿 海-2-
電車内。
寝たい人を座らせて仮眠をするようにして、起きている人はつり革に掴まって話をした。
「それにしても、カナカナのおかけで今回は遅刻しないで来れたな、テルテル」
「うるせぇよ。つか寝させろ」
「男は起きてた方がいいだろ、照」
「というより、俺たち以外全員寝てるって……」
悠里、照、瑛太、志馬以外全員座って寄り添い合って寝ていた。楽しみにしすぎてあまり眠れなかった女子が大半であった。
今回、飛鳥という照の保護者がいたため、陽を照の家に泊めてついでに一緒に来てもらうという作戦が無事成功した。
前回、照が予定時刻に間に合わせようと努力しなかったため、道のりを覚えていた悠里と一緒に遅れてきたのだ。
そのことを懐かしむ悠里と瑛太だったが、当の本人はウンザリとした顔付きだった。
「で、どこまで行くんだか。というか、どこにそんなお金があるんだ?」
志馬が疑問に思っていたことを悠里に訊いてみるが、悠里は目をギラつかせて指で丸の形を作った。
「前々回は自腹、前回は奢り。そして今回は部費を落とす」
「はぁ? 部費って……」
予想外の言葉が出てきてキョトンとする志馬だが、悠里はどや顔で言い放つ。
「ようやく部として我ら青春系帰宅部が認められたからな、部費がもらえるのも当然だろ」
「ぐぬぬ……」
反論できず、そう言えばと部費に関する資料で帰宅部の名前を見た覚えがあったと思い出す。
「で、でもこんな私利私欲のために使うなんてことは……」
「現にテルテルは遅れず来たではないか。更生という我が部の目標は達成しつつある」
「ぐぬぬぬぬ……」
頑張ってひねり出したことを論破されて、さらに顔を歪める。
そんな二人を仲睦まじく見ていた瑛太が付け加える。
「でもま、今回は大目に見ましょうよ、生徒会長さん。なんだかんだで部長も生徒会二人が来てくれて嬉しいって思ってるから」
「こ、こら! エイエイ、余計なことを!」
図星なのか、珍しく慌てて否定する悠里。えっ、と今度も志馬は驚いた顔で悠里を見る。
目が合った二人は互いに別方向に視線を逸らす。
なんとなく気まずい沈黙が訪れたと思ったら、眠っているはずの渚と初歌がジト目で二人を睨んでいた。
「…………悠里は渡さないから……」
「…………我が友、我と闇の契を結んでいながら……」
幼馴染みに見られていたことに無性に恥ずかしくなった志馬は、つい電車内ということを忘れて大声でツッコミを入れてしまった。
「お、お前ら起きてたのかよー!!」
「で、電車内だぞ、しまくん!!」
「そろそろ乗り換えっすよ、みんな」
わーきゃーと騒いでしまい、他の客の視線か痛かったのだが、彼らは全く気付かないでいた。
結局騒がしくなった、と眠たげな照が深いため息をついた。
その後、何度か乗り換えを行い、目的地の最寄り駅に無事時間通りに着き、今度はバスに乗った。
「なげぇ」
「こういうのも旅行の醍醐味ですよ」
「そんな醍醐味より寝たい」
「照くん……」
そんな照の感想に、陽と此恵が横から口出しする。
「にーちゃん、りょこー大好きじゃなかったかー?」
「移動時間もずっと起きてて楽しんでたです」
「くたばれお前ら」
「あはは……」
しばらくバスの窓から見える景色を楽しみ、ようやく降りるバス停に着く。
「ここからほんの少し歩くが、頑張ってくれ」
照以外はそれぞれ自分の荷物を持って、悠里を先頭に歩き出した。
朝だが熱気は凄まじく、歩いてすぐに汗が出てきていた。
しかし歩いていくうちに段々と鼻、肌、耳に海の香りを感じてくるという新鮮な感覚に、更に海への興味が湧いてきていた。
いつの間にか眠気も晴れて、暑いということも忘れ、長い電車やバスでの疲れもどこ行く風で足がどんどん進んでいく。
そして、
「着いたぞ」
悠里の言葉通り、それは照たちを歓迎してくれた。
見渡す限りに広がっている青、雲一つない晴天の空に浮かんでいる白い鳥、横一面にある砂浜、視界を塞いでこの景色を邪魔するものなんて何もない。
波の音がここにいる照たちのところにもやってきて、もう海の中にいるんじゃないかと錯覚してしまうほどだった。
そんな普段見れない絶景に飛鳥や此恵はともかく、前に見たことがある他のみんなも圧倒されていて、見蕩れていた。
「綺麗……」
誰が呟いた言葉なのか、今はどうでもよかった。
この景色を見れたことに、ここまで来た努力が無駄なんかにならなかった。むしろお釣りまでつくような感じがした。
「さて、それじゃあ行こうか」
部長がそう言ってくれなければずっとこうしていたみんなは、その言葉でやっと現実に戻ってこれた。
「水着に着替えてまた集合しよう。男性陣の方が早いだろうから場所取りもやっておいてくれ」
「了解っす」
一旦男子と女子に別れ、それぞれ更衣室に向かった。




