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文化祭考案-3-

 みんなで相談する時間は終わり、決定する時がきた。

 今回は公平な結論になるように配られる紙に一人で書いて提出することになった。

 学級委員が前の席の人にその列の人数分の小さな紙を手渡し、一枚とって後ろに回していく。受け取った人から既に書き始めていて、全員に行き届くまでに決めた人たちもいた。

 やがて全員書き終わったことを確認して、それを余つ折りにしてもらってから後ろから前にそれを送ってもらった。こうすれば一応誰が何を書いたかはわからなくなると思ったからだ。

 余つ折りにされた紙を少し混ぜるようにしてから、学級委員は調べ始めた。

 男子が一枚一枚紙を確認して女子に見せる。女子は見せてもらった紙に書いてある案を、黒板に書かれてあったその案の下に、正の字を書くようにチョークで記していく。

 五つ分あれば正の字が出来上がり、次の正の字に移ることができる。あとから数えやすいため、この方法を使っている。

 クラスメイトは学級委員の一連の流れを見てドキドキしながら黒板を凝視する。自分の入れた案の数が増えた時、心の中でガッツポーズをしたり、他の誰かと自分が同じ案だったとわかった時には、それは誰なんだろうと考えていたりしていた。

 そして、全ての紙を確認して黒板に写し終わって、男子の学級委員が言葉にする。

「えーっと、一番多いのは……演劇ですね。演劇に決定することに賛成な人は拍手をしてください」

 演劇とお化け屋敷が最後まで接戦だったため、終わるまでクラスメイトを飽きさせることはなかった。

 演劇派の人たちは内心で素直に喜んで拍手をしたが、他に票を入れた人たちは勿論のことお化け屋敷派はがっかりしていて、それでも勝った相手に賞賛を送るようにきちんと拍手をした。

 文化祭の案が演劇ということになったが、ここからまだ決める事がたくさんあるので、そのままロングホームルームは続いた。

「これからまた色々と決めなければならないことがあります。まずは何をするかですが、これは挙手で決めましょう」

 先ほどと同じようにしてクラスメイトの意見を聞く。演劇派はノリノリだったが、お化け屋敷派を含めた選ばれなかった案の人たちは、最初は引きずっていたりしていたが、折角の楽しい文化祭なのにこうして沈んでてはよくないと思い、演劇派に負けないくらいに意見を出した。

「照くん照くん、演劇ですねっ」

 クラスメイトたちの意見を背に、飛鳥が少し興奮した様子で照にそっと語りかける。

 そんな飛鳥をめんどくさそうに感じながらも、照は頬杖をして答える。

「それが?」

「照くん主役できますねっ」

「まだそんなこと言ってるのか」

 うんざりと言った表情でため息をつく照。てっきり瑛太のノリに合わせてただけだと思っていたが、相手はあの飛鳥だと気付き、本心だろうなと自己解決していた。

「照くんみたいにかっこいい人なら大丈夫ですよ」

「かっこよくねーよ。つかかっこいいだけで演劇なんてできねーし、第一そんなこと思ってもないだろ」

「思ってますよ、かっこいいって」

「……はいはい。そーですか」

 この話題は危ないと直感した照が早めに切り替えようとするが、いかんせん照の返し方が飛鳥にとって適当だと思わせてしまい、余計に突っかかってきてしまった。

「もー。照くんはもう少し自覚を持った方がいいですよ」

「……人の事言えるのかよ」

 たまに照がなんとなく廊下や教室にいて、飛鳥の姿がない時によく耳に入ってくるのだ。

「夏撫ちゃんって可愛いよね。彼氏いんのかなー」

「はぁ? 何言ってんだよ、あんな可愛いのに彼氏いない訳ねーだろ」

「だよなぁ。あー、夏撫ちゃんみたいな彼女欲しー!」

「童貞乙」

 という男子たちの会話や、

「ねーねー、飛鳥ちゃんっていいよねー。なんかさー、話しててちょー楽しい!」

「わかるー。最初はぎこちなかったけど、慣れてきたらすごいいい子でねー!」

「もー可愛すぎてお持ち帰りしたいよね!!」

「ダメだよ! 私の嫁なんだから!」

 という女子たちの会話が時折聞こえて、本人のわからないところでの本人の株が上がっているのだ。

 勿論少しは彼女の耳にも入っているだろうが、同時に彼女もまた、照みたいに照のいないところでの株の上がり話を耳にしている。

 つまり、二人は互いの評価の話を本人の知らないところで聞いているのだ。

「とにかく、照くんはちゃんと自覚を持つためにも、演劇をやるべきです」

「嫌だめんどい。だったらお前がやってくれ」

「……………………わかり、ました」

 売り言葉に買い言葉の返し方だったはずなのに、飛鳥はそれ以上踏み込んでこなく、黙ってしまった。

 そのことに対して照は猛烈に嫌な予感を全身で感じていた。今すぐ振り返って確認しようとしたのだが、

「それじゃあ、多数決をとります」

 司会の学級委員によってそれは拒まれてしまった。

 いつの間にか黒板には新たな案が書かれていて、王道な物語が連なっていた。きっと飛鳥との会話に夢中になっていたからだろう。

 そして、照の心情など知らずに多数決が始まった。





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