生徒会長-4-
飛鳥の話をまとめるとこうなった。
帰宅部の存続のためには、遊び以外のれっきとした何かをすること。照の内申はまずく、今からでも頑張れば変えられるとのこと。
ならば二つを同時にすれば一石二鳥になるではないかと。
帰宅部のみんなが力を合わせ、照を更生することを目的とすれば部活としての記録が残せることになる。
今後の照の出席態度が改めれば、目的が達成したということで帰宅部は無事このままでいられる。
「なるほど。帰宅部の目標を照の更生にするとは……カナカナ、考えたな」
「いいんじゃない? 全てが合わさってて」
うんうん、と納得の様子の帰宅部に対して、当然の如く生徒会の意見は反対だった。
「冗談じゃない! そんなふざけた目標があってたまるか!」
「さすがにその悪魔の盟約には従えぬ」
そして生徒会の助っ人のように照も反対派だった。
「ふざけんな。なんで俺も巻き込まれなきゃならねーんだよ」
「だって照くんも帰宅部じゃないですか」
「それとこれとは話が違」「もう決めたからな! お前たちに色々言われる筋合いはない!!」
照の言い分を聞く前に、悠里がどこからか取り出した部活の書類に書き込んでいた。
志馬の静止も虚しく、空欄なく全てを埋めて彼に手渡した。
「ほら。これで満足だろ? だからとっとと帰る帰る」
「だから受け取るわけにいかないだろ!」
「だったらゴミでも運ぶようにしてとっとと校長のところに持っていくといい。あの人ならハラショースパシーバって言って受諾するに違いない」
ここで校長の名前を出され、志馬は勝ち目がなくなったと悟った。ここの校長は自由奔放で誰にでも友好的な性格の持ち主であるため、きっとこの書類を見せればすぐ承諾するだろう。
それは初歌もわかっていたことで、志馬より早く諦めがついてしまった。
「……天晴ぞ。この渾沌とした聖戦に、終わりへと導く清き精霊を秘めていたとは」
「うちの天然担当だからな」
よくわからないことをドヤ顔で言い切る悠里だったのだが、まさに言葉通りに飛鳥が照れた。
「そんなことないですよ」
「…………っぷ、はは。全く、しょうがないな」
何かが吹っ切れた志馬は、子供の頃に幼馴染みたちに見せていたような笑顔になった後、帰宅部部室から出ようとする。
同時に、初歌も志馬に続くように立ち上がる。
「俺からも言ってみるけど、まぁ多分これで大丈夫だと思う」
「良き戯れ、良い時であった。また逢う時には友として逢おう、飛鳥殿」
「また遊びに来てください」
二人を見送り、悠里はひと仕事済ませたように体を伸ばして疲れをほぐした。
「いやーまたいつもの繰り返しになるところだった。ありがとう、カナカナ」
「いえ、ただ思ったことを言っただけですよ」
あはは、うふふと聞こえてきそうなほどのほんわかとした空間になったが、その平穏を平気でぶち壊しにきたのは照だった。
「お前ら何勝手に進めてるんだよ……」
いつもの三割増でイライラしている様子の照に、部長はへらへらとして答える。
「これから帰宅部のために頑張ってくれたまへ」
「殴る。それで帰る」
「ちょ、照くん抑えてださい! 小早川先輩も、挑発しないでください!」
「やれやれ……」
「まさか、本当に承諾するなんてな」
「頂きを占める者が、あのようで本当に良いものか」
初歌が呆れたような口調で呟く。
帰宅部を出た後彼ら生徒会はすぐに職員室に向かい、悠里があの時書いたままの紙をそのまま提出した結果、受け取ってくれたのだ。
「でもさ、そのおかげでお前のその格好もあんまり注意されないんだぞ」
「うっ!? そ、そんな無礼なことは断じてない」
この後二人は帰宅部に書類のことを話すため、また帰宅部部室に向かっていた。
たまにすれ違う生徒たちに挨拶しながら、幼馴染みの思い出を久しぶりに語り合った。
「そういえばさ、最近あいつらとはあんな感じで喧嘩ばっかりしてたな」
「うむ。先刻のように笑ったためしが皆無であった」
「いつもいつも生徒会やら帰宅部やらで、普通の会話をしてなかったなー」
「時折宿命から離れた場所で再会しても、一触即発の紛争だった」
「……久しぶりに、みんなで遊ぶか。生徒会、帰宅部なんて関係なく」
「それは良き事だ。皆で古より封じられている魔王を解き放とうではないか」
「それは、また今度な」
遊ぶ予定を考えていたら、すぐに部室の前へと着いてしまっていた。
なんだか少しだけ照れくさく感じてしまっていて、なかなか入るのに戸惑っていたが、中から聞こえる楽しそうな声に惹かれて、自然と扉を開けていた。
「部活の件だけど……」
「待てこの野郎!」
丁度その時、照が自分のカバンを悠里に向けて投げており、悠里は扉付近に逃げていてそれをよけたところだった。
そしてそれは、扉を開けていた志馬の顔面にノーガードで当たってしまった。
「ぅごぁぐ!?」
突然の衝撃に為すすべもなく倒れてしまった志馬だったが、二人はそれどころではなく追いかけっこを続けていた。
唯一初歌が志馬ことを心配そうにしていた。
「だ、大丈夫か我が友!?」
「…………褒めた途端にこれかよ……!」
痛む顔を抑えながらも、志馬は立ち上がって二人の追いかけっこに無理矢理参加した。
「待てお前らぁ!!」
「おぉ生徒会長、部活はどうなった?」
「そんなん知るかぁぁぁぁああ!!」
「余計にうるさくなった」
「も、もう照くん! 小早川先輩! 渡会先輩!」
「こ、今宵の宴は狂気に満ちているな……」
今日の帰宅部は、いつもより騒がしかった。




