GW-5-
「今日はありがとうです、イッチー!」
ゴールデンウィークの休みを利用して、此恵と一花は一緒に都会にいた。
お互いに合う服を選んだり、ゲームセンターで遊んだりして、有意義な時間を過ごしていた。
「う、うん。喜んでくれてよかった」
此恵のリアクションに、一花も嬉しそうに笑った。
最初はオドオドしながら此恵と部活をしたりご飯を食べたりしたが、最近になってようやく打ち解け、あまりオドオドしなくなっていた。
それどころか此恵の影響で少し明るくなり、同級生とも少しずつ会話ができるようになってきていた。
実は今日の計画も一花が決めたのだ。
「ありがとうね、コノッチ。本当は忙しかったのに無理させちゃって」
「いいですよ。それに、イッチーから誘ってくれて嬉しかったです!」
本来此恵はゴールデンウィークに予定が詰まっていたのだが、一花のために予定を詰めて時間を作ったのだ。
そのせいで、今日は夕方で解散ということになってしまったが。
「また遊ぼうです! 今度は此恵が考えてくるですよ!」
「うん。約束」
「一緒に買った服、一緒に着ましょう!」
「あ、あはは……ごすろり? は、私には似合わないよ……」
今二人は駅内にいて、先に帰る此恵を見送るところだった。
電車が来る頃合になり、一花は乗客の列から離れて此恵を見送ろうとする。
此恵は来た電車に乗る前に一花に笑顔で手を振ってから乗車した。一花も微笑みながら手を振りかえし、出発した電車が見えなくなるまで立っていた。
「…………」
ふとポケットに入れていたスマホを取り出し、時間を確認してみる。
時間の確認と同時に、一通の連絡が来ていることも知れた。
「そ、そうだ……急がなきゃ……!」
一花は急いである場所へ向かった。
「ご、ごめんなさい! 遅れちゃって……」
着いた所は、先ほどまで此恵といた駅の反対側。駅前にある目立つオブジェに、その人物は待っていた。
「いーよいーよ。待ってないから」
少し遅れて来たが、一花に何事もなかったようだったので一安心する彼、瑛太。
一花と瑛太の関係は恋人同士である。
中学の頃、偶然の出会いからによる瑛太の一目惚れだった。彼が積極的にアプローチを繰り返し、時間はかかったが一花の心を掴むことができた。
みんなには隠しており、二人が付き合っていることは此恵はおろか、同じ中学の照や陽でさえも知らない事実である。
瑛太が北上高校に行くと言った暁には、一花自身も行くと言い張ったほどに愛し合っている。
「それより一花ちゃんになんにもなかったからよかったよ」
「うん……ごめんなさい、心配かけて」
「いやいや。そんなことよりさ、一花ちゃんって都会苦手じゃなかったっけ?」
瑛太の言う通り一花は騒がしいところはあまり好きではない。いつもデートといったら互いの家か地元から離れたところにある公園くらいなものだ。
都会に来た理由は、瑛太も此恵と同じく今日しか遊べなかったからだ。
移動を考えると瑛太と遊ぶ時間が減るため、折角だからと此恵と遊び終わった後すぐ瑛太と遊べばいいと思ったからだ。
このことは此恵にも瑛太にも内緒のことである。
「た、たまにはいいかなって」
「まぁ別にいいけどね。荷物持つよ」
隠し事をしているのには気付いていた瑛太だったが、詮索はせず此恵との買い物でできた一花の荷物を持ってくれた。
ありがとうと一花は礼をして、瑛太との新鮮なデートが始まった。
帰宅部三年のゴールデンウィークは、悠里の家で勉強会というイベントだった。
丸机に教科書ノートを開いて勉強中である。
「疲れた〜なぎさぁ〜」
「悠里は英語以外勉強しないとダメでしょ? 追試したくないでしょ」
「確かに追試はしたくない……でもさすがに疲れたぞ……」
飛鳥の勉強方法以上にスパルタで渚は悠里を監視し続けている。格好も渚が本を読んでいるスタイルで、集中して取り組んでいる姿勢だ。
一見残酷に見えるが、悠里は本当にギリギリのラインの成績なのでこうでもしない限り逃れられない。
「……でも、疲れたままやってても仕方ないしね」
「おおー渚さまぁ〜」
天使にすがりつくように悠里は渚にくっつく。はいはいと軽くあしらってから、付けていたメガネをとってポニテを解き、悠里の家に来るまでに買ってきたカップアイスを取り出す。
「はい。バニラだよね」
「アイス〜。バニラときたらあれしかない!」
渚から貰ったカップアイスを持って悠里は部屋から出て行った。
渚のはミルク味の棒アイスを買ってきていて、先にそれを開けて食べていた。
少し経って悠里が部屋に戻ってきた。
「やっぱりチョコも必要だよな!」
悠里の手に持っているアイスには、板チョコを細かく刻んだものが乗せられていた。
わざわざ台所まで行って板チョコを切っていたのだ。
「相変わらず好きね、それ」
「渚も食べるか?」
「カロリー高そうだからいい」
「まぁまぁそう言わずに一口でも」
先に食べいる渚の隣に座り、ついてきた木のスプーンを使ってチョコが乗ったバニラアイスをすくって渚に近づける。
少し迷った素振りを見せたが、観念したのか黙って口を開いた。
その小さな口に、悠里は慣れた手付きでスプーンを入れ、直後その口が閉じる。ゆっくりとスプーンを閉じた口から引き抜き、味わっている渚に聞いてみる。
「おいしい?」
「ん……おいしい」
市販物なのにね、と付け足してアイスがなくなった口の中に自分のアイスを入れて食べる。
相変わらずな反応だったが、悠里は気にせず自作アイスを楽しんだ。
「そのアイスもおいしそうだな」
「これ? そのアイスよりはおいしくはないけど、おいしいよ」
「照れることを言うじゃないか。一口いいかな?」
「どうぞ」
今度は渚のアイスが悠里の口元に近付く。先ほどの渚と同じように悠里も目を瞑り、口を開けて待った。
何を思ったのか、渚はそのままアイスを待機させてじっと悠里の表情を見ていた。
いつまで経ってもアイスの感触が来ないと思っていた悠里は、渚? と呼んで目を開ける。
その声にようやく正気になった渚だったが、無表情になりながらワンテンポ遅れて悠里の口にアイスを突っ込む。
むぐっ、と驚いて声を出してしまった悠里だったが、落ち着いてアイスを舐める。
口の中で舌を動かし、全体を包み込むようにしてから味を確かめ、溶けたアイスを飲み込む。
味わってる途中だったが、渚はアイスをゆっくりと引き抜いた。
そのアイスは悠里の唾液と溶けかけているアイスの液体が混じり、艶かしくテカリながらも渚に凝視される。
「おいしかったぞ。でもどうしたんだ?」
悠里でもおかしいと思う渚の行動を聞いてみるが、その渚はじっとアイスを見続けている。
やがて、バッと勢いよく悠里を見てから言った。
「もう一回いい?」
「え?」
いきなり見つめられたことにも驚いたが、渚の頼み事の方に驚いていた。
が、有無を言わさずの顔つきで悠里を見つめ続ける渚だったので、仕方ないと言った様子でまた悠里は口を開く。
「(エロい……)」
そう思いながら、また先ほどのことを繰り返すようにアイスを悠里に食べさせた。




