GW-3-
照のゴールデンウィークは至ってシンプルな過ごし方である。
気のままに起きて寝る。それの繰り返しだ。
しかし、そんなゴールデンウィークの使い道は今年で消えてしまうことになった。
「照くん! 宿題しましょう!」
朝から飛鳥の乱入により、大事な睡眠時間がなくなってしまったからだった。
いつもの十秒に一回のチャイム。彼が出てくるまで何回も鳴らす。
「……少しは寝かせろ。こんな朝っぱらからなんだよ」
うるさく感じ始めた頃に、ようやく飛鳥を家に招き入れた。
「もう九時ですよ? それにこうでもしないと照くん宿題なんてしませんですし」
「朝っぱらから来ても変わんねーよ」
「それもそうですね」
家に入れるんじゃなかったと後悔している時に、照はこっそりと陽に招集メールを送っていた。
それには飛鳥は気付かず、ちゃんと自分の分と照の分の宿題を用意して取り掛かろうとした。
「でもやらなきゃやりませんよね?」
「……他の女友達とは遊ばねーのか?」
「遊びますよ。明日」
完全に逃げ場がなくなった照は、ため息を長くついてから宿題にとりかかろうとする。
それを見た飛鳥は、うんうんと頷いて自分の宿題を始めた。
「それにしても照くん、ゴールデンウィークなのにずっと寝る予定だったんですか?」
宿題に手をつけながら飛鳥は照に訊ねてくる。一方照は飛鳥の問題を解いてるスピードの三割ほどの速さで解いていた。
「悪いかよ」
「いつもと変わらないなぁって」
そこ、間違ってますよ? と照の答えも見て丁寧に教えていた。
めんどくさそうにため息をつきながら訂正を加えた。
「お前のせいでできなくなったけどな」
「なら今日で終わらせれば明日から寝れますよ」
「なんで徹夜確定みたいなノリなんだよ」
早くも飽き始めてペン回しをし始めた照に対して、ペン回しすごいなぁと少し憧れも持つ飛鳥。
「あはは。別に照くんのことバカにしてませんからね」
「バカにしてないならバカって言葉は使わねーよ」
「と、とにかく、徹夜にならないように頑張りましょう!」
ペン回しおしまいですと言わんばかりに照に勉強を促した。
しばらくの間二人は宿題に集中していたが、先に照が痛くなってきた頭を片手で押さえながら、ふと疑問に思ったことを口にした。
「……お前さ、こういうの俺以外の男にやってんの?」
その問いかけは唐突すぎて、えっと飛鳥の思考を停止させた。
しかしそれは一瞬で、宿題で解いた問題のように簡単に答えを出した。
「やりませんよ。どうしたんですか、急に?」
「なんで?」
珍しく食い下がる照にこっちが疑問を持ちながらも、真面目に飛鳥は考え始めた。
今度はすぐ答えが見つからなく、思わず宿題をしていた手が止まるほどだった。
「なんでって……なんででしょう?」
「俺が知りたい。じゃあ瑛太には俺にやってることを同じようにやるのか?」
真っ直ぐ見つめる照の真剣さに飛鳥は圧倒されながらも、頑張って見つけようとする。
「うーん……多分、照くんが瑛太くんでもやってると思いますよ」
「は?」
思わず間の抜けた声を出してしまった照だが、今度は飛鳥が真剣な表情になった。
「きっと、隣の人が照くんじゃなくて瑛太くんでも同じようなこと、してますよ」
ますますわけがわからなくなってきていたが、なんとなく照は飛鳥らしさを感じ、今日何度目かのため息をついた。
「…………なんだそれ。家が近ければいいのかよ」
「そうかもしれませんね」
「…………よくわかんねーやつ」
「あはは……よく言われます」
苦笑いをして頬をかく。
結局照の知りたかったことはわからなかったが、飛鳥はこの照の問いかけが、本人の気付かないうちに心のどこかに残ってしまった。




