GW-1-
ゴールデンウィーク。今年は日曜と相まって四連休となった。
連休明けには中間テストがあるため、休日に部活をするところはあまりなかった。
青春系帰宅部、陸上部、演劇部、バレー部もその部活のうちの一つだった。
「ひまー」
家で一人、 ゴロゴロと休日を味わっている陽がボヤいた。
テスト勉強は毎日予習復習をしているため、焦ってやる必要もなかった。連休前に出された宿題も先ほど全て終わらせてしまい、手持ち無沙汰になってしまっていたのだ。
時刻は昼を過ぎたあたり。照の家に行こうかと思ったが、宿題を手伝わされると予想した陽はその案を消していた。というより既にメールで召集命令が来ていた。
現在、それを無視しているわけである。
「あー、ひまー」
誰か誘って遊ぼうかと思ったが、あまりそんな気分でもなかった。
どーしたものかなー、と一人で考えていたら、
「暇なら家事くらい手伝いなさいよ」
そう母親の言葉が聞こえてきたため、逃げるようにして家から飛び出した。
「人いっぱいいるなー」
自転車に乗って駅前に遊びにきた陽が放った第一声がそれだった。有名な駅で尚且つ休日なので人が多いのはいつものことではあるが、電車を使わない陽にとっては新鮮に見えたのだ。
と、丁度反対側の駅前にある大きなデパートが見えたため、そこに行こうと陽は思い反対側に向かった。
長い踏切を越え、自転車を駐輪場に停めてデパートに入る。
「へー。意外とすげーなー」
あまりこのデパートを利用していない陽は、久しぶりのような感覚で見回った。
地下一階の食品売り場をなんとなく見ていた陽の少し前に、見知った後ろ姿が映った。
一人で買い物をしているように見えたため、なんとなく陽は驚かそうとした。
ゆっくりと近付いていき、相手に気付かれないように後ろに立てた陽は軽く肩を叩いた。
ん? と不思議そうにこちらを見ようとする彼に、置いたままの手の人差し指を伸ばす。振り返ると同時に、彼の頬に陽の人差し指がプニっとつつくようになった。
「へへー。騙されたー」
思惑通りになった陽は満足した表情を彼に向ける。彼は何が起こったのか理解するのに数秒かかり、そして一言。
「ゆ、ゆゆゆゆ遊木宮せんぱいいいぃいいい!?!?」
顔を真っ赤にして後ろにつんのめり、大声を出して驚いていた陽の陸上部の後輩、奏汰だった。
場所全体に響くほどの大声を出してしまい、他の客の視線がぶつかり、更に恥ずかしくなった奏汰だったが、陽はそんなことを気にせず話しかけてきた。
「よー。買い物かー?」
「は、はははい! そっ、その……遊木宮先輩も、ですか……?」
「んいやー、ぶらついてただけー」
「そ、そうですか……」
憧れの陽と話していて、うまく思考がまとまっていない奏汰。部活の時に話してくれているが、どうもまだ慣れていない。
恥ずかしくて俯き気味の奏汰に、陽は内心可愛らしーなーと思いながら続けた。
「ほんとー女の子っぽいなー。あー、かなっちさえよければ一緒にいーかー?」
「ゔぇえ!? いいいいんですか!?」
女の子らしい、という言葉なんて即奏汰の頭から消えてしまった。
先輩と一緒に買い物なんて絶対に無理なことだろうと諦めていた奏汰だったが、今日という日に感謝をせざるを得なかった。
「ふ、ふつつかものですが、よよよろしくお願いします!!」
「おー、よろしくー」
きっちり九十度のお辞儀をする奏汰に、また可愛らしいという気持ちが高まった陽であった。




