勉強会-5-
下校時刻。
勉強会など露知らずに、部室に残った部員たちはやっとそれぞれ思い思いに過ごした。
「照ってさ、制服新しいやつ買ったのか?」
「あぁ? 前のと同じだけど」
「そうだったっけ。綺麗だしいい匂いもするぞ。あと女子たちからいい意味で人気の的だった」
「あの世話好きがやったからだな。つか別に前のと変わらねーだろ」
「なるほど、飛鳥ちゃんが」
「あとにーちゃんんちもそーじしたんだぜー」
「お前の仕事だったがな」
「へー。これじゃあ言えないな」
「なんのことだよ」
「女子たちに聞かれたんだよ、何かあったのかって」
「理由言ったら飛鳥先輩に詰め寄られますですね」
「俺にはかんけーないだろ」
「かんけーないだろうけど、飛鳥ちゃんかわいそうなことになるぞ?」
「そんな女子がいるんならとっくに俺はストーカー被害に有ってるはずだ」
「あはは、違いない」
「っていうか自覚してたんですね、センパイ」
「ことごとく無視して何故かこっちに被害が来るんだけどな」
「苦労人ですね」
彼らは一緒に昇降口に向かい、そこで丁度悠里に出会った。
「おお、偶然だな」
「渚先輩とはどうなったんだ?」
隣に渚がいなかったため、照が訊ねてきた。
その質問に悠里はやや苦笑いをしながら答えた。
「いやぁ参ったよ。渚に口説かれることになるなんてな」
「じゃあ演劇に出るんですか!?」
「あぁ。出ることにしたよ」
此恵の期待した問いにはちゃんと答えられた悠里。みんなが嬉しがる反面、でもさと照が追加で訊ねる。
「じゃあなんで渚先輩と一緒じゃないんだ?」
「あー。まぁちょっとな」
珍しく歯切れの悪い悠里に、みんなが疑問に思っていると、おおこんな時間だと大袈裟に驚き、
「それじゃあまた明日! 別に渚とは特に何もないから安心しろ!」
と口早に言って悠里一人で帰ってしまった。
残された四人は少し気にはなったが、何もないと言う部長を信じて帰り道に着いた。
照の家の前。
まっすぐ自宅に帰ってきた照を待ち構えていたのは飛鳥だった。
飛鳥は照の姿に気付くと、開いていた携帯を閉じ、てくてくと照に近付いてきた。
「照くん、ありがとうございます」
開口一番感謝の言葉と共に頭を下げる飛鳥。相談の件かと察した照はその礼を素直に受け止めずに流した。
「勝手なお前の勘違いで済んだんだろ? 礼なんていらねーよ」
「それでも背中を押してくれたのは照くんです」
一向に頭をあげようとしない飛鳥に、ついに照の方が折れた。
「わかったから顔あげろ」
上げられた顔には誰が見ても嬉しそうに見える表情がそこにあった。
一瞬、照の中で何かわからない気持ちが生まれた。
そのことに気付く前に飛鳥が話し初めてしまった。
「そう言えば照くん、友達って一体何をすればいいんでしょう?」
「……お前それマジで言ってるのか?」
「さ、最低限は知ってますよ! 一緒にご飯食べるとか一緒に話しをしたりとか、一緒にトイレにいったりとか!」
そんな飛鳥のバカな発言のせいで、照は先ほどの感情のことなんてすっかり忘れてしまった。
あの感情を思い出すことになるのは、そんなに遠くない未来ではなかった。




