勉強会-4-
「友達といえば此恵、報告したいことがあるです」
飛鳥を見送った部員たちは、そのまま自分たちの好き勝手に放課後を過ごそうとしていた時、此恵が思い出したかのように言う。
「ほーこくってー?」
「この前先輩に話したことです。あの後頑張って友達になれました!」
この前ー? と陽はなんのことかと思っていたが、代わりに照が思い出していた。
「友達になりたいとか言ってたやつか」
「はい! ついにあだ名で呼びあう仲にまで発展したです!!」
そのことが本当に嬉しそうに此恵ははしゃいでいた。それでようやく思い出した陽は、よかったなーと此恵を褒めた。
「へー。どんな子?」
瑛太も気になったのか、此恵にその友達のことを聞いてきた。よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに此恵は胸を張って言った。
「イッチーって言うんです。此恵と違って大人しくて可愛いんです!」
「イッチーって言う大人しい子なんだ……ん?」
「ちびスケと比べるんなら誰だって大人しいだろ」
「此恵、ちっちゃくないです!」
瑛太の疑問も他所に、照と此恵はまた口論していた。
まーまー、といつものように陽が仲介役を務める。
「相談と言えば、遊木宮くんに意見を言ってほしいことがあるの」
ここまで介入しなかった渚が突然、照に相談を持ちかけてきた。
少し意外なことだと思った照だったが、先に悠里が涙目で訴えてきた。
「親友だと思ってた子が私に頼らず後輩に相談したんだがどうしたらいい?」
「知るか。お前絡みの相談に決まってるからだろ」
「なん……だと……!? それじゃあ渚は、私とどうやって縁を切ろうとかそういう相談を!?」
「悠里のこと嫌いになるはずないから。多分」
「うわーん! 渚がグレたぁぁぁぁぁぁああああああ」
勘違いをしたまま、悠里は勢いよく部室から飛び出して行った。
その一部始終を見届けた渚はため息をつき、何事もなかったかのように話し始めた。
「演劇のことだけど、三年生最後の劇に悠里が出ようとしないの」
「後輩に出番を渡したのか?」
渚が気にしなかったので、みんなも気にせず渚の相談に付き合う。
「そう。ほんとは悠里も出たいって思ってるかもしれない。それなのに悠里は自分のことを後回しにして……」
「そうあいつに頼んでみればいいだろ」
照が渚の言葉を一刀両断した。
一瞬、渚の思考が止まったが、何か口にする前に続けて照が言う。
「お前の頼みならあいつは受け入れるだろ。どうしてもお前が出てほしいっていうんならだけどな」
「……出てほしいというか、後悔してほしくないというか」
「後悔してるのはお前だろ、渚先輩」
え、と照の鋭い一言に渚が圧倒された。
「あんたは悠里先輩の演劇が好きなんだろ? そして高校生最後の演劇で悠里先輩が出ないとこが嫌なだけだろ」
「それは、その……」
「だったら自分のためにあいつを動かしてやれ。後輩のことなんて考えるな。つか、その方が後輩にもいいことだろ」
「…………」
「わかってんだろ? 自分のことくらい俺に言わせるなよ」
「……!」
照の後押しに、ようやく渚が動き出した。渚は飛鳥と同様何か決意した表情になり、無言で部室を後にした。
それを見届けた照はドッと椅子に深く腰をおろした。
「はぁ……疲れた」
「お疲れさん。なんだかんだこういうの向いてるんじゃないのか?」
「うるせえ」
「にーちゃんらしくねーけどなー」
「ほんとです」
「殴るぞ」
しかし本当に殴る気なんてなく、カラカラになった喉を潤そうとバッグに入っていたお茶に口をつけた。




