勉強会-2-
「おー。めっちゃきれーだなー」
陽が玄関から家の中を見た第一声がそれだった。
その感想に、飛鳥がえへんと胸を張る。
「頑張りました!」
「流石あすかっちー」
パチパチパチと陽が気の抜けた拍手を飛鳥に送る。素直に嬉しがってる飛鳥は満更でもなさそうだった。
そんな能天気な二人を見た照は、そんなことより食い意地の方が強かった。
「陽、メシ」
陽がいつも持ってくる朝ごはんを要求してきた。そんな照でも、陽は嫌な顔一つせずにパンが入ってるビニール袋を手渡した。
「んじゃー、オレは部活いくからー」
手渡したのを見届けた陽がありえない発言をした。
飛鳥にとって、彼女のその言葉はそんなに抵抗はなかったが、照にはそれが天変地異の前ぶりに聞こえた。
「は? 何言ってんのお前」
「何言ってんのはお前だよにーちゃん。ふつーのこーこーせーなら当たり前のことだろー」
「お前はふつーじゃねーし今更なんで真面目に朝練出るんだよ」
いつもなら朝のホームルームギリギリに教室につけるように照の家でのんびりとするはずだった。
なのに陽は自ら進んで朝練に出ようとしているのだ。
「でも陽ちゃん、確か明日英語の小テストですよね?」
「んー? オレ頭いーからモーマンタイー」
「え、そうなんですか?」
確認するように飛鳥は照を見る。照も認めたくないような口ぶりで言った。
「こいつ、学年トップ」
「え、嘘!?」
驚いた飛鳥の視線の先には、先程の彼女のように胸を張ってどや顔している陽がいた。
「やははー。すげーだろー」
「はい……ビックリしました」
侮辱されていたと思われる飛鳥の発言だったが、陽はそんなことには気付かずに、んじゃなー、と陽はご機嫌に登校しに行った。
残された二人だったが、照は何も考えずに陽に貰った朝ごはんであるパンを取り出していた。今日はあんぱんだった。
「……あのー、照くん」
何か気まずそうに飛鳥が照に訊ねた。
「勉強会、しませんか?」
「しねーよ」
「ですよねー……」
「テストなんてどーでもいいし、小テストなんて論外」
「で、でも日々の積み重ねが結果に繋が」「今がいいなら未来なんてどうでもいい」
「なんでそこまで今にこだわるんですか……」
登校中でもしきりに飛鳥が照に勉強会をしようと誘っていた。
何故そんなに勉強会をしたがるのか、照なりに考えてみたが、理由は一つしかなかった。
「お前、勉強会やったことないだろ」
照のその一言で、飛鳥はスイッチをオフにされたロボットのように止まった。
明らかな図星に思わず照はため息をつく。
「学校にいる女友達とすればいいだろ?」
更にその一言によって飛鳥はパンチを喰らったかのように体をよろめく。
マジかと照は心の中で呟いた。
「……わからないんです。ボクが勝手に友達だって思ってるだけかもしれないですし……」
ブツブツと黒いオーラを纏いながら飛鳥は愚痴るように呟く。これは面倒なことになると確信した照は、同情して勉強会をやろうと誘いに乗った。
こうして、勉強会という名の人生相談会が始まった。




