勉強会-1-
照の家の大掃除が終わり、月曜日。
結局あの後、照が起きたのは夜の九時を過ぎてからだった。思っていたより疲れ果てていて、思う存分眠ってしまっていたようだった。
そのことに気付いた照だったが、起き上がることが面倒と感じ、二度寝をしてしまった。
現在、朝の六時。
照は昨日と同じ格好でベッドから起き上がった。
睡眠時間をきっちりと摂ったため、こんな早い時間帯に起きるのは必然だった。
朝ご飯を食べようと居間へ行こうとした照だったが、妙な違和感を感じた。
「……ここ、俺の家なんだよな」
汚いイメージのまま一年過ごしてきていたため、こうして綺麗に整理整頓されている本来の姿が、照にとって斬新で、久しぶりの光景に見えていたからだ。
心なしか、空気も透き通っているようだった。
「こんなんになっても、少し経てば元通りになる……とは、限らねーな」
お節介で世話好きな彼女を思い出し、一人ため息をついた。
居間にきてみると、テーブルの上には照の服が全て綺麗に畳まれてあった。照が眠っている間に洗濯が終わったのだろう。
それを照はめんどくさそうに自分の部屋のタンスにしまった。
意外と多い自分の服を片している時、ふと何かの匂いを感じた。
「……甘ったる」
しかしどこか嗅いだことがある匂い。
それを思い出そうとしたが、家中にチャイムが鳴り響き、その思考は一時中断をせざるを得なくなった。
チャイムは十秒に一回。聞きなれたリズムなので誰が来たのかは照にはわかっていた。
「…………なんだよ、こんな朝っぱらから」
「照くん、結局昨日何も食べなかったから朝ごはんを作ろうかなー、って……」
扉の向こうには照の予想していた人物通り、制服を既に着ていた飛鳥だった。
しかし、そんな飛鳥の好意を照は受け取らなかった。
「いらね。今日陽くるし、お前のメシ普通だし」
「そ、それはそうですけど……でも、練習すればいつか美味しく」「諦めろ」
「ぜ、絶対に照くんをぎゃふんって言わせるほど料理上手くなりますから!」
謎の宣言をする飛鳥だったが、照は絶対に出来ない事と確信していたため、この約束はすぐ忘れてしまった。
と、急に照は何を思ったのか、飛鳥に顔を近づけてきた。
その行動に、思わず飛鳥はビクッと驚きを隠せないでいた。
「な、なんですか? 照くん……」
「…………この匂いか。だからか」
そう一言言って照は飛鳥から離れ、一人で納得していた。
訳が分らないといった様子で飛鳥が訊ねてくる。
「匂いってなんのことなんです? も、もしかして何か臭ってたりしました!?」
自分で言って心配になったのか、制服の袖を鼻に近づけて匂いを確かめ始める。
そんな飛鳥の心配を他所に、照は満足といった感じで頷き、
「んじゃな」
そう言って扉を閉めてしまった。
飛鳥も慣れなのか、はいまた明日、と返してしまっていた。
違和感に気付いた飛鳥はハッとなり、またチャイムを慣らし始めた。
「照くん!今日学校ですよ! 遅刻しちゃいますよ!!」
結局照が飛鳥を家に入れたのは、数十分後に陽が彼の家に迎えにきてからだった。




