大掃除-5-
時刻は四時を過ぎたあたり。
まだ空は暗く、このマンションに住んでいる人達の中には早起きの人もいるが、流石に起きてはいない。
そんな中、二人はなんとなく照の家の居間でテレビを観ていた。
ソファーとテーブルの前に十分な距離をとってテレビが置かれているが、二人はそのソファーに座らずに、敷かれてあるカーペットの上で胡座をかいたり正座をしたり、テーブルに肘を乗せたり膝の上に置いていたりしていた。照の家には座布団と思われるものがなかったからだ。
たまに飛鳥が洗濯を確かめに洗濯機のところへ向かいに立ち上がるが、それ以外やることがなかった。
睡魔はとっくに立ち去ってしまい、疲れが溜まっているはずなのに眠ろうとはしなかった。というよりは眠れなかった。
つまらないテレビ番組をなんとなく観ていた二人だったが、会話をしようとは思ってなかった。
第三者から見れば居心地の悪そうな空間とも言える状況のはずなのに、二人はそうとは思わなかった。
なんとなく、いい。
なんとなく、この時間がいい。
何故なのかは二人にもわかってはいなかった。無意識に思ってしまっていたのかもしれない。
以前の二人だとそんなことは絶対に思えはしなかっただろう。出会って間もない二人が今この状況を見れば、異常な光景だと口を揃えて言うはずだ。
一時の気まぐれかもしれない。偶然かもしれない。
それでも、この時間は確実に存在している。
嘘ではなく、本当に。
「ん……ぁ……」
いつの間にか眠ってしまった飛鳥が、テーブルにうつ伏せていた体を起こす。何かが落ちる音がしたが、寝ぼけている飛鳥はそのことに気付かなかった。
目をこすりながら壁にかけられている時計に目を向ける。
時刻はとっくにお昼を過ぎており、おやつの時間に近かった。
「…………わわわ! て、照くん!!」
慌ててテーブルの反対側を見るが、そこには誰もいなかった。
あれ? と不思議に思った飛鳥だったが、やっと冴えた頭でよく周りを見てみると、テレビと明かりは既に消えていて、何故か照のものと思われるジャージが飛鳥の近くに落ちていた。
頭にはてなを浮かべながらもそのジャージを持って立ち上がった。
「照くん……?」
どこかに行ったのだろうかと、探して回った。しかし案外あっさりと見つけられた。
彼は自分の部屋のベッドでうつ伏せになって眠っていた。
あまり慣れない手つきで敷いたのだろう、きっちりと敷かれているわけではなく、ただ硬い床に寝たくないためだけに敷かれたものだった。
案の定、照はジャージを脱いでいた。
「……まったく、照くんは。風邪引きますよ」
彼の不器用なことに微笑ましくなった飛鳥は、彼のジャージを返すように彼にかけた。
起こさないように部屋から出ていこうと、扉に手をかけたところでまた照の方を向く。
「それじゃあ、おやすみなさい」
返事が返ってくることはなく、飛鳥はゆっくりと部屋から出ていった。




