入学式-2-
二人はマンションの駐輪場に停めてある陽の自転車を使って学校に向かった。
陽が前で、照は後ろに座って進み始めた。
「きょー入学式じゃんー? ちゅーがくのこーはいが来るんだよねー」
「あーあいつか、あのちっこいやつ」
「そー、あのちっこいやつー。ごーかくできてよかったよー」
「ほんとにな。あの学力でよくこれたもんだ」
「『先輩と同じ高校に行きたいです! 此恵、頑張りますから応援してて下さい!』の一点張りだったなー」
「……お前、無駄にモノマネうまいよな」
「そーそー、きょーにーちゃんの運勢最悪だったぞー。ウケるー」
「それってつまりお前も最悪だったってことだろ」
「いーんだよー。にーちゃんが最悪だってのにウケるんだからー」
「嫌なやつだな」
「にーちゃんには勝てねーよー。この前せんせーにちゅーいされてんのにガン無視して居眠りしてたじゃんー」
「それはあのセンコーの授業が退屈だったからだ。向こうが悪い。つか、なんで知ってるんだよ」
「にーちゃんのことはなんでも知ってるからなー」
「答えになってねー」
「にーちゃんだってオレのことよく知ってるだろー? それと同じだー」
「うぜえ」
「それからさー……」
学校に着くまでコロコロと変わっていく他愛のない会話をし、退屈な時間を紛らわせた。
学校に着いた頃には既に校門前にたくさんの二年生と三年生で賑わっていた。新入生を自分たちの部活に勧誘するためだ。
と言ってもここにいるのはほんの一部で、校内にはこの数以上の上級生たちが、一年生の教室に駆けつけている。
「大変だなー。こーしてみるとー」
「部活決めても諦めきれないやつらとかいるから余計面倒だ」
他人事のように遊木宮兄妹は呟く。去年自分たちも同じ目に遭ったため、助けようとはしなかった。
二人は呑気に校舎に向かうと、同級生たちに声をかけられた。
「よー照! 初日から遅刻とかいい度胸してるなー!」
「陽ちゃんも大変だったねー」
「お前には用ねーから! 新入生連れて来い!」
「二人もやっぱり勧誘するの?」
一年の頃から二人は有名人だった。なんせ同じ顔なのに性別が違う、というだけで色々な人達に声をかけられ続けた。
そんな有名人たちはそれぞれのクラスメイトに教室を教えてもらった。この学校は入学式と同じ日に二年生三年生のクラス決めが発表されるのだ。
「まー違うクラスだったなー」
「当たり前だろ、双子だし」
「でもそれって同性の双子だけじゃねーの?」
「そこまでは知らん」
クラスに行っても誰もいないのはわかりきっていることなので、二人は部室に向かった。
全校生徒が忙しなく行き違う廊下を進み、ようやく着いた部室。
そこの部室は日当たりが悪く、更に廊下の隅に位置しているので、生徒はいなかった。
扉に手を掛け、鍵が開いていることを確認してから入る。
同時に、クラッカーの音が響いた。
「よく来た新入生! 歓迎する!」
扉の前に一人の女子生徒がいた。照たちの先輩にあたる人で、黒髪ロングストレートという王道な髪型をしている。
凛とした顔つきだが、黙っていれば美人とこの学校で有名である小早川 悠里。
彼女の放ったクラッカーのくずが照の頭に乗っかる。ようやくそこで照たちに気付いたのか、呆れた表情になった。
「なんだお前たちか。遅かったじゃないか」
まったく悪気がない素振りで、使ってしまったクラッカーを捨て、別のクラッカーを制服のポケットから取り出した。
「にーちゃんがサボってたからー」
「それなら仕方ないな」
「おい」
クラッカーのことを怒ろうとするも、陽が悠里と話し始めてしまったため怒りの行き場がなくなってしまった。
そう思った照は迷わず陽の後頭部目がけて殴った。
「いてー。なんだよーにーちゃんー」
こういったことはいつものことであるため、不意打ちで殴られたとしても陽は怒らずに何故殴ったか理由を求めるために振り向く。
「うっせえ」
しかし理由を話すはずもなくまだ怒りが残っている照だったが、部室にある自分の定位置に座った。
「若いなぁ」
その一連流れを見ていた部長は思わずそう口にする。言われてから陽は頭に手を置いて照れる。
「可愛いにーちゃんですのでー」
「殴るぞ」