大掃除-1-
土曜日。
北上高校は土曜日にも授業がある。しかし一日中ずっとというわけではなく半日で終わるため、昼ごはんを食べずに家に帰ることができる。
午前中の授業が終わり、照はまっすぐ陽のいるクラスに向かった。
クラスに着いた時、丁度よく陽が扉から出ようとしていたところだった。
「おい、約束忘れてねーよな?」
「そうだったなー。助っ人呼んだから頑張れー」
そう言って陽は照の横を通り抜けようとする。陽の言った意味がわからなく、照は止まってしまい、そのまま陽を外に出してしまった。
気がつけば陽は階段を使って下に降りようとしている最中だった。
「ちょっと待ておい!」
声を荒らげて照は陽を追いかけるが、その背中はもう見えなくなっていた。
くそっ、と呟き、照はポケットから携帯を取り出そうとした。
すると後ろから遠慮がちな声をかけられた。
「あのー、照くん……?」
「あぁ!?」
イラついたまま振り返ってみると、そこには照の怒鳴り声で怯えきっていた飛鳥だった。
「……なんだよ」
少しだけ落ち着きを取り戻した照は飛鳥に訊ねる。彼の落ち着きに、彼女も怯えが消えて説明した。
「陽ちゃんから頼まれました。ボクが陽ちゃんに代わって照くんの家を掃除します」
「……よくやる気になったな。家、見たはずだろ?」
それが不思議だった。あんなゴミ屋敷と知ってもなお飛鳥は何故掃除をしようとするのかと。
だが飛鳥は、照にはわけのわからないことを言う。
「照くんへの恩返しです」
「はぁ? 俺なんかしたか?」
「いいんです、気付かなくて。行きましょう!」
笑顔で先に階段を下り始める飛鳥。
さらに頭にクエスチョンマークを増やしながらも照も追いかけるようにして階段を降りた。
照の家の前。
少し待っててくださいと飛鳥は言い残して自分の家の中に入ってしまった。
それから二十数分が経ち、素直に待っていた照がもう家に入ろうかと思った矢先に、飛鳥がようやく出てきた。
「お待たせしました」
彼女の両手で大きなお皿を持っていて、そこにはサンドイッチがたくさん乗ってあった。
サラダ多め。タマゴ。ハム。デザートとしてイチゴとクリームが入っている、色々なサンドイッチだった。
「先にお昼食べてから始めましょう」
ニコッと笑って照に勧める。丁度お腹を空かしていた照はその善意を無下にせずに、ん、とサンドイッチに手を伸ばそうとした時、ふとある疑問を浮かべた。
「食べるんならお前んちに入ればよくね?」
しかし、飛鳥は少し頬を染めて反対した。
「女の子には色々と準備しなきゃいけないこととかあるんです。準備なしに男の子を家に入れません」
「何するんだよ」
「色々です! そんなことより食べてください!!」
飛鳥の押しに負けた照は、仕方無いといった表情でタマゴの入ったサンドイッチを手に取り、一口食べる。
モグモグと味を確かめている照を心配そうに飛鳥は見つめる。
やがて、全部飲み込んだ照が一言。
「普通」
そう感想を述べて二口、三口と食べる。
普通かぁ、と地味にショックを受けた飛鳥だったが、立ち直って自分も食べ始めた。
「……あ、ほんとだ。普通」
「味見してねぇのかよ」
料理をしない照でもさすがに味見をすることくらい知っており、そのことを伝えると逆に飛鳥が訊ねてきた。
「サンドイッチってどうやって味見するんです?」
その返しに料理の知識を持っていない照にとっては答えが簡単に出せるはずがなかった。
「……余計に一個作る、とかか?」
「あー。でもパン切って中に何か入れるだけですし、味見はいらないんじゃないかなーって」
その彼女の思考に、思わず彼はつぶやいてしまった。
「……お前、料理伸びねーな、きっと」
「え、嘘ですよね? 冗談ですよね? 照くん、そんな黙々と食べないでください!」




