後輩-5-
「なんできょーにーちゃん走ってたんだー?」
「別に」
「なんかヤな事でもあったかー? ほらーオレに言ってみろよー」
「うぜえ」
「ほらほらーオレはいいことあったぞー」
「はぁ?」
「きょーなー、面白いこーはいがいたんだよー。にーちゃんみたいに女の子の名前なのに男なんだぜー」
「あっそ」
「しかも体力なくてさー。見た目とかもほんとに女の子っぽかったぜー」
「逆にお前はもう男だな」
「にーちゃん、オレの女子力舐めちゃーあかんぜよー」
「はいはい女子力女子力」
「完全に舐めてるなにーちゃん。そこまで言うならオレの女子力見せてやろーじゃねーかー」
「じゃあ俺んち掃除してみろよ」
「……わかったー、いいだろー。次の休みの日にそーじしてやんよー」
「言ったな? 破ったら次遊ぶ時に全部奢れよ」
「おー。任せろー」
普段通りの会話を遊木宮兄妹がしている時に、後ろから此恵が声をかけてきた。
「先輩ー! それとセンパーイ!」
「おーこのっちー」
二人は校門付近にいたが、此恵とは帰る方向が逆なので此恵とは一緒に帰れない。それでも声をかけてきたことは、何か話したいことがあったからだろう。
それを決定づけるように、此恵が二人に意気揚々と、しかし地震が無く話始めた。
「今日一緒に部活をした女の子と友達になりたいのですけど、明らかに避けられてる気がしたです……」
「そりゃお前のテンションについてけるやつの方がすくねーよ」
「ゔっ。そ、それはそうかもしれないですけど、確かに大人しそうな子でしたけど……」
やはり強引すぎたのかと、此恵は反省した。今思い出せば無理矢理気味だったと思うところがいくつもあった。
まーまー、と陽が此恵を励ますように肩を軽くポンと叩く。
「お前が友達になりたいなら頑張るしかねーよー。ごーいんでもなんでもー、仲良くなったと思ったらもー友達だー」
「先輩……! わかりました! 此恵、もう少し頑張ってみます!!」
新たな決意が固まったところで、此恵は二人に礼を言って帰路についた。
「うまくいくといーなー」
「それはあいつ次第だろ」
「だなー」
未来の友達に向けて頑張っている後輩の背中を、二人の先輩は眩しそうに眺めていた。
校舎。
飛鳥と渚が昇降口に着いた時、疲れ果てて帰ってきた瑛太とばったり出会った。
「え、瑛太くん……? 大丈夫ですか?」
「疲れた……」
「いつもお疲れ様」
事情を知っている渚は、弱った瑛太を見て労いの言葉をかける。
おう、と気弱な返事をしてその場に座り込んでしまった。
「何かあったんですか?」
「いや……ちょっと照の写真を撮ってただけ……」
そう言って手に持ってたデジカメを飛鳥に渡す。
照くんの写真? と呟いてから内容を見る。
「こんなにたくさん撮ってたんですか!?」
「依頼だから仕方無いけどな……ほんと疲れたぁ……」
しばらく飛鳥は渚と照が映った写真を見ていて、
「……あの……その…………こ、この写真だけ貰うことってできますか?」
急に飛鳥が瑛太に頼んできた。
隣にいた渚も驚き、瑛太も驚いて面食らった表情となったが、頼んでいる飛鳥の顔を見た瑛太は、なんとなく察して笑って答えた。
「みんなには内緒な。特別だぜ?」
その写真は照が真っ直ぐ前を見つめ、いつもの彼とは想像できないほど、全身全霊を込めて走っている綺麗な写真だった。




