後輩-3-
なんでも部が写真部に変わった同時刻。
飛鳥と渚は帰宅部部室にいた。
「アポロおいしいですー」
「イチゴ味はおいしいよね」
ここ最近、二人が一緒にいる回数が増えてきていた。何故なら、飛鳥が入った部活が水泳部だからだ。
水泳部に行ったところ、部員たちと顔を合わせたところで、
「んじゃ、六月くらいに会おうねー」
と部長に言われてしまったからだ。
四月でもてっきりプールに入ると思っていた飛鳥は水着のセットを持ってきていたので、先輩たちに笑われていた。
なので、活動がない今は帰宅部部室に入り浸っているのだ。
「あ、ボクもお菓子持ってきましたよ」
飛鳥はそう言って自分のカバンからあるお菓子を取り出した。いつもは誰かが置いていったり食べ残したものを食べたりしていたが、たまには自分も持って来なければという謎の使命感に駆られた彼女だった。
何かなと期待していた渚だったが、そのお菓子を見た途端目の光が消えていた。
「…………キノコ派、だったんだ……」
「えっ? キノコ派?」
なんのことかわからないと言った様子で首を傾げる。
しかしそれはどこをどう見てもキノコ派が持つものだった。
「…………これは戦争が起こる……」
「せ、戦争? なんのことですか?」
「……これはタケノコ派のわたしに対する挑戦状ね」
「タケノコ派? あ、そう言えば買う時に隣に置いてあったよく似たお菓子の名前が」「よく似たお菓子!?」
滅多に聞かない渚の怒鳴り声に、飛鳥がビビる。一瞬で照の怒り顔を思い出させるほどの威力だった。
「お、落ち着いてください瑞凪先輩!」
「確かにタケノコの方が後に出た。でもキノコより断然おいしいじゃない! 何がキノコよ男のち」「瑞凪先輩!」
これ以上はいけないと確信した飛鳥は無理矢理その口を両手で塞いだ。
モゴモゴと興奮が冷めない様子だったが、やがて自分のしてしまったことがわかったのか、耳まで真っ赤にして落ち着いた。
「ご、ごめんなさい……」
「い、いいですって……」
落ち着いた渚を見て、両手を離してホッとする飛鳥だが、渚は恥ずかしさのあまり顔を俯けて、涙目になっていた。
後輩にこんな姿を見られてしまい、軽蔑されると思ってしまっていた。
そんな渚に、飛鳥はもう一つお菓子を取り出す。
「瑞凪先輩」
「……恥ずかしい……いっそ死にたい……」
「瑞凪先輩はこっちなんですよね?」
何かを見せている飛鳥。渚はゆっくりと顔をあげてそれを見てみる。
「……あ……タケノコ」
「どっちか買おうと思ってたんですが、ボクにはあまりわからなかったので両方買ってきたんです」
そのお菓子を持つ飛鳥が、渚には天使のように見えていた。
それと同時に、こんな後輩が帰宅部にきてくれてよかったとすら思えていた。
「さっきのことはみんなには内緒にして忘れましょう。一緒に食べましょう」
「……ありがとう。ごめんね、こんな先輩で」
自分のことが滑稽で、こんなに優しくしてくれるならいっそ罵倒してほしかったと。
しかし飛鳥は、母親が我が子を見るような眼差しで、渚を見つめた。
「誰だってたまにあることですよ。それに、あんな瑞凪先輩を見れて嬉しかったですし」
「……忘れるって話じゃ、なかったの?」
「忘れますよ。でも瑞凪先輩のこと、少しでもよく知れてよかったです」
「…………ほんと、優しいね」
クスッとようやく微笑んでくれた渚を見て、飛鳥は心からホッとした。
「それじゃあ食べましょう!」
「うん。でもキノコは食べないから」
「あはは……」




