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部活-5-

 五時間目が終わり、今日の授業が全て終わった。

 飛鳥は授業中に回ってくるクラスメイトたちの膨大な手紙の量と戦っていたため、くたくたとなっていた。

 これが転校生の性だと割り切り、帰りのホームルームが終わってもまだ眠っている照を起こそうとする。

「遊木……照くん、起きて下さい」

 名前で呼んでいるところをあまり見られたくないと思った飛鳥は、小声で起こそうとする。

 しかし、小声で起きるなら誰も朝に苦労はしない。彼は無反応だった。

「おい照、奢ってもらうんだろ?」

 帰る支度を終えた瑛太が照の肩を軽く揺する。その行為でようやく照は体を起こした。

「放課後か……」

「ほら、部室いこーぜ」

「今日は来れるのか」

「俺の当番じゃないからな。ほら、飛鳥ちゃんも」

「え、あはい!」

 急いで帰り支度を済ませ、照と瑛太と一緒に部室に向かった。



「ボク、この部活のことあまり知りません」

 帰宅部部室。昼休みと同様のメンバーが揃い、席は同学年が固まる中、一人だけ一年の此恵を気遣ってか、瑛太が隣に座った。

 昼の罰ゲームと自己紹介を済ませたところで飛鳥がそう言い出した。

「え、カナカナってボクっ娘?」

「お昼の時と自己紹介で言いましたよ……? そんなことより、この部は何事にも楽しむっていうことだけしか知りません」

「それさえ知ってればいいんだよ」

 悠里は無糖の缶コーヒーを飲みながらぶっきらぼうに答える。

 そんな部長の説明に、渚が補足する。

「この部、正式な部として認められてないんだ」

「え、ダメじゃないですか! しかも部室も占拠してしまって」

 思わぬ発言に飛鳥は戸惑う。

 俺も最初は戸惑ったなー、と瑛太は他人事のように呟く。

「みんな兼部してて、そこで成績残してるから」

「そうなんですか?」

 そこで真っ先に照を横目で見てしまった飛鳥。その意図がわかった彼は目つきを鋭くして睨んだ。

 その目つきに怖がり、渚に先を促した。

「悠里は演劇部、遊木宮くんと遊木宮ちゃんは陸上部、箕来くんはなんでも部に入ってる。だから夏撫ちゃんと六実ちゃんも、どこかに入らないと本当の帰宅部になっちゃうよ」

「既にここ帰宅部じゃないですか……」

「帰宅部のやつらと一緒にするな!」

 目をカッと開いた悠里が飛鳥に一喝する。

「やつらは帰るだけに命賭けてる存在にすぎない。しかしそれをしないで帰宅部と名乗ってるキャツラもいる。お前らはただの無所属だろ、部活に入ってないだろ! といつもいつも思ってるんだ!!」

「……小早川先輩は何か嫌なことがあったんですか?」

「中学の時、無所属だったのに帰宅部って言ってたら、じゃあ何する部なの? 帰るだけじゃんって諭されたの」

「だから私は嫌いだ。帰宅部なんて単語を作ったやつも嫌いだ」

「えぇぇ……」

 何を言ってるのかいまいち理解できてない飛鳥の肩をポンと陽が叩く。

「つまりー、ここはただの集まりー」

「な、なるほど……」

「私の説明では納得しなかったのに!」

 シクシクと渚のところへ慰めてもらっていた。流石に少しだけ同情した渚は、悠里の頭をなでた。

「でもこの部室って元々何部のだったんですか?」

「囲碁将棋部。人数不足で廃部になったの」

「よく鍵持ってましたね」

「そもそもこの部活が始まったのは私たちが一年の時だったか……」

 頭をなでられてすっかりご機嫌になった悠里は、二年前の話を持ち出した。

「何部に入ろうか悩んでたら先輩たちが今年から作る部活に入らないかと誘われ別にこの部に入るって決めてなかったからとりあえず入ったんだが名前も何も決まってなかったからとりあえず部室確保しようって話になって偶然にもこの部室の鍵を持ってた渚のおかげで部室ゲットして次は何にしようってなって結局何も決まらなくて先輩の一人が帰宅部でいいんじゃね? って言ってそれだとありきたりだしなんかヤだってなってじゃあ青春系ってつけようって誰かの案がそのまま採用されて決まったけどいざ申請しようとしたら活動内容を聞かれたけど何もしないって言ったら断られたからこっちが勝手に部室占拠して集まってたんだけど流石に生徒会がうるさかったから部活掛け持ちしようってなって掛け持ちしたんだけどそこでいろいろと結果残したから生徒会もちょっと自重してグイグイ来なくなってよっしゃって思って好き勝手やっていって今に至るってこと」

 先輩が武勇伝を語っていたが、途中からみんなは聞かなくなっていた。

「もしかしなくても小早川先輩って話まとめるの苦手ですか?」

「大体合ってるよ」

 女子は自分で持ち込んできたお菓子を分け合って食べており、男子もそれを貰う形でわいわいと食べていた。

 それにやっと気付いた悠里は、涙目になりながらお菓子に手を伸ばした。

「少しくらい聞いてくれたっていいじゃないか……」

「こ、此恵はちゃんと聞いてましたよ!」

 ポッキーを口に含んだまま答える此恵に対し、更に落ち込む悠里。

 今日何度目となる悠里の頭撫でを渚はして、本日の部活動は終わりを迎えた。




「照くんが部活に入ってたことにはビックリしました」

 下校時。照と飛鳥は一緒に帰っていた。

 陽と瑛太は電車通学の此恵を送るためと悠里と渚は帰る方向が同じなので、こうして二人で帰っていた。

「うるせえ。いいだろ別に」

「でもほんとに意外でした。走るの好きなんですか?」

「……」

 照の無言の威圧により、飛鳥は縮まる。聞いてはいけないことだったかなと思い、謝ろうとした時、

「……走ることしか、俺にはできなかったからな」

 そう一言、ポツリと呟いた。

 隣にいないと聞こえないほどの小ささで。しかしそれは飛鳥だけには聞こえていた。

「照くん……」

 その先を聞くべきか、飛鳥は悩んだ。聞いたら後には戻れない気がするからだ。

 それからは互いに無言だった。走る車の音や誰かの話し声、遠くから聴こえてくる踏み切りの音。それらが鮮明に二人の耳に入ってきていた。

 そんな調子で二人はマンションに着き、それぞれの部屋が見えてきた。

 挨拶しようか飛鳥が悩んでいた時に、向こうから声をかけてきた。

「じゃーな。さっきのことは忘れろ」

 飛鳥の方を見ずに背中を向けたままで。

 だから飛鳥も、ついいつもの感じで返してしまった。

「は、はい。また明日……」

 照はそのまま鍵を開けて自分の家に入っていった。

 何故急に自分のことを話そうとしたのか、飛鳥にはわからない。が、飛鳥は自分からその先を聞かないようにした。

 話してくれるまで、待とうと決めた。





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