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緑の柱(改)  作者: 美羽
Emerald
7/9

1-6

Side:Filia



翌朝私は準備を整えたルーク、バルドと共に家を出た。

持ち物は家にあった私の武器らしい刀(他国のものだが扱うことは出来る。恐らくこれも記憶のせいなのだろう)と、いくつかの薬草である。

先には進まずに梯子を下りてすぐの場所で立ち止まらせた二人は不思議そうな顔でこちらを見詰めた。


「フィリア、行かないの?

結構距離がある場所なら急がないと日が暮れるよ」


「と言うかそもそも本当に場所は分かっているんだろうな?」


「貴方達の心配事は分かっているわ。

でもここから目的の場所に歩いていくなんて、何日もかかるわよ?」


そもそもこの二人だって私に出会うまで数日この森を彷徨ったのだ、私の言っていることも十分実感した後だろう。

しかしあまり焦らしてはまた面倒なことになる。

ここはさっさと済ませて出発した方がよさそうだ。


「おいで、グリフォン」


木の陰に控えていた存在を呼び寄せる。

そうすればそれはのそりと起き上がりこちらへと歩み寄ってきた。


「害はないわ。【幻獣種】のグリフォンよ。

ここから宝石があるところまで乗せてもらえるように頼んでおいたの」


警戒して剣に手をかけた二人にはそう言い添えてグリフォンへと近寄り頭を撫でる。

そうすれば鳥の顔で獅子のようにグルグルと鳴いた。

元々グリフォンは鳥の頭と翼に獅子の身体、そして蛇の尾を持つ少し凶暴な【幻獣種】である。

けれど彼は人懐っこくて気性も穏やかな個体だ。

だからルーク達も乗せることができると思って昨日のうちに彼を訪ねた。

訪ねたと言っても口笛を吹いて呼べば彼の方からやって来てくれるのだが。


「さ、乗って。グリフォンの翼でも一時間くらいかかる道のりだから、あまりゆっくりはしていられないわ」


固まったままの男二人を呼び寄せても、彼らはなかなか動かなかった。











「うわっ、高っ!」


強く羽ばたきぐんと高度を上げたグリフォンにルークは歓声を上げた。

少々落下への恐怖が入っていないこともないが。


「目的地までは私が彼に伝えながら飛ぶから、貴方達は景色でも眺めていたら?

こんな風に【幻獣種】の背に乗って飛ぶなんて、あまり経験できることじゃないと思うし」


「遠足気分か……」


失礼な、緊張を和らげようと思っての発言だと言うのに。

しかしルークの方は私の言葉通り景色を楽しもうとしているらしく、今も私の後ろできょろきょろと顔を動かしていた。


「おい、ルーク少しは落ち着け。落ちるぞ」


「だってバルドすごいよ!」


「落ちてもたぶん拾えるから大丈夫よ」


絶対とは言えないが、と付け足したところでバルドの顔色が悪くなった。

もしかして彼は高い場所が苦手なのだろうか。


「と言うかお前は戦えるのか?

見たところ珍しい種類の剣だが……」


「これは刀。<黒曜>が原産だから、もしかしたら見たことがないかもしれないわね」


私の頭の中の知識が正しければ、この世界は二つの大陸で成り立っている。

一つは私が今いる国が治める中央大陸で、もう一つがそれを囲むようなドーナツ型をした海央大陸と呼ばれるものだ。

それ以外は全てが海で満たされているこの世界。

存在している国は全部で五つ、中央大陸にある<オルアース>、海央大陸の東に<黒曜>、北に<ヘルト>、西に<シャーン>、南に<ファルクス>。

各国はある程度の国交を保ちながらも基本的には不干渉で、闇の者に対する対処などはそれぞれの国で行っている。

だから基本的には他国に対する知識はその国の有力貴族か王族、もしくは力のある商人程度しか持っていないのだ。

バルドは少なくともある程度の知識はあったのだろう、刀だと名称を答えた私に対しそれはどういったものかという説明を求めることはなく、しかし興味深そうに鞘に収まったそれを見詰めた。


「それはどこで?まさかその年で<黒曜>に行ったことがあるわけじゃないだろう」


「そうね、これは貰いものよ、たぶん」


「何とも適当な話だな」


確かにそうかもしれないが、そんな気がしているから確かなのだと思う。

他人から奪ってまで物品に対する執着心は持ち合わせていないのは自分で分かるため、そうなると貰い物というのもそれらしいと思うのだ。


「ねぇフィリア、そう言えば昨日の返事考えてくれた?」


「返事?………あぁ、あの誘い」


忘れていた。と言うか、敢えて考えないようにしていた。

それが伝わったのか、ルークは拗ねたような声音を使ってくる。


「その様子だと全然考えて無いでしょ?

これでも僕は真剣なんだけど?」


「それはごめんなさい。

でも正直戸惑いの方が大きいのよ。

大体料理がそれなりにできて薬草の知識がある人間なんて、探せばいくらでもいるでしょう?

それとも貴方もそっちのバルドみたいに、私が緑の民かもしれないからだとでも言うの?」


もしそうなら正直なところ同行は遠慮したい。

私は別にそういった自身の証明が欲しいわけではないのだ。


「いや、僕はあんまりそっちのことは考えてないよ。

ただフィリアが一緒に来てくれたら楽しいかなって思って」


「楽しいって…」


「だから言っただろう?ルークは我儘だと。

お前の事が気に入ったから連れていきたい、根底にあるのはそんなものだ」


心底呆れ、また諦めを含んだ言葉が背後から届いて私はため息をついた。

確かに我儘かもしれない。そして変わり者でもあるかも。


「ルークは気に入った人を次々と同行させるの?

最終的に何人で旅をすることになるのか、いっそ興味深いわ」


「バルド余計なこと言わないでよ。

それにこう見えて僕、人を見る目はあるつもりだよ。

ついでに言うなら好き嫌いは激しい方。

フィリアみたいにすっごく一緒にいたいなって思う人、なかなかいないんだ」


「人を見る目がある人は、こういう怪しい人間を引き入れないと思うけれど」


「怪しい人間は自分を怪しいなんて言わないし、これだけお世話になってる人をそんな風に思うはずないじゃないか」


「そういうものかしら?」


本当に暢気な事だ。だがまあいい。

最終的に私が断ればいい話なのだから。

これ以上の討論は無駄な気がして、私は話を切り上げグリフォンに指示を出すことに集中した。











「……着いたわ。あれよ」


上空から一点を指差す。

陽の光は既に橙で、あと少しすれば完全に周囲は闇に包まれるだろう。

グリフォンの力を借りたとしても半日以内で到着するのは難しかったようだ。


「もしかしてあの、一際大きな木?」


背後から首を伸ばして前方を見るルークに頷く。

視線の先に映るのは他とは一線を画して高く大きく枝を伸ばした大樹。

けれどそれは自然なものでは決してない。


「えぇ、幹にエメラルドが埋まっているらしくて、そこから過剰な力が伝わっているみたい。

成長しすぎて枝が変な方向に伸びているし、根の方も窮屈そうね……早く取り除かないと」


「エメラルドの周りを彷徨いているという闇の者はどうした?」


「そっちは……」


【危ない】


「――っ、グリフォン、右に!」


強くグリフォンの毛並みを引いて、半ば強引に右へと旋回させる。

背後からうわ、だとかいう悲鳴が二人分聞こえたが仕方がない。

首を巡らせれば先程までの軌道上に黒く鋭いものが伸びていて、正直ヒヤリとした。


「気づかれたわ!攻撃されてる!」


「何だと!?」


【またくる】


「ちょっと揺れるわよ!」


木々の注意に従って、なるべく攻撃が当たりにくくなるようにわざと蛇行しながら飛行した。

腰にしがみつく手の力が強くなったことや後方で気分が悪そうな声が聞こえることは仕方がないので無視だ。

グリフォンが怪我をしたら大変なのだから。


「どうする?このままだと埒があかないし、降りるか一度退散するかしたいところなのだけど」


「降りる場合はどうやるんだ?」


「決まっているでしょ?

ある程度の高度までグリフォンに下がってもらって、そこから飛び降りるのよ」


「それができるのはお前だけだろう!」


確かにバルドの言うことも尤もかもしれない。

と言うか逆に彼ら二人が飛び降りることのできる高さはどれくらいなのだろうか。


「でもこうなった以上逃げるのも大変だよ。

飛び降りて戦っちゃった方がいいんじゃないかな?」


「ルーク、お前なぁ…」


文句を言いたそうなバルドをさっくり無視して、ルークはこちらに微笑みかけた。


「フィリアが飛び降りることができる高さの半分くらいで降りるね」


「まあ、そうなるわよね」


さてそうなると私はどうするべきか。

ルークとバルドはともかく、私自身はある程度までならどの高さからでも着地が可能だ。

ならこの二人を下ろしてからもグリフォンの背にのって敵を攪乱した方がいいような気もしてくる。

いや、逆に先に私から飛び降りて相手をしておき、二人が安全に着地出来るようにした方がいいかもしれない。

相手をすると言ってもほんの数秒なのだし、それほど危険も伴わないだろう。


「グリフォン、一番低い枝の高さまでお願いね。

それじゃあ私は先に行っているから、貴方達は高度が低くなったら来てちょうだい」


「え?」


「お、おい!」


何だか二人の焦ったような声が聞こえるが、すぐに遠ざかってしまったため対応は不可能だ。

陽が沈み始め冷たくなった空気が耳元をかすめる。

目を凝らせばこちらに向けて攻撃の手を伸ばす、赤い瞳と目があった。

これでも夜目は利くほうだ。


「やっぱり先に降りて正解ね」


真っ直ぐに伸ばされる――これは、尾だろうか。

眉をひそめつつ手に持つ刃を抜き放ち、降下の勢いのまま目指した獲物へと振りかぶる。

上手く重力を使えたことや相手がほぼ垂直に尾のような身体の一部を伸ばしてきたこと、そして元々の刀の切れ味もあって、狙い通り着地と同時に敵の肉体の一部は切り落とされ地に転がった。

すぐに再び剣を構えつつ痛みにより耳障りな悲鳴をあげる敵を見つめる。

こうして間近で見ればやはり先程のあれは尾だったらしい。

闇の者はその個体ごとに様々な形をとるが、今回の相手は蜥蜴を模したものだったらしい。

大きさとしてはそれなりだろうか。

例えるなら小屋ほどのサイズだが、以前はこれを超えるものを何体も相手にしたものだ。

これしきならば片手間でも倒せるのではないだろうか。


「………、本当に、困った頭よね」


何がこれしきならば、なのか。

大体これより巨大な相手など、一体記憶を失う前の自分は何をしていた?

ズキリと頭が鈍く痛んで、浮かぶ問いはすぐに掻き消されたけれど。


「何で今頃になってこんなに思い出すのよ…」


少なくとも私が自我を持ってこの森で目覚めたのは一年ほど前だ。

その時の状況は目が覚めたら森にいた、というのがぴったりなもの。

言葉通り自分は森の真ん中で僅かな持ち物(今使っている剣などだ)とともに横になっていて、目が覚めたときには自分がフィリアという名前だということと日常的な知識以外何も覚えていないという状態だった。

それ以来森の木々に助けられながら生活を営んでいたがこうして記憶の断片が頭を掠めることなど一度たりとも無かったというのに、これはどうしたことか。

他の人間と関わって記憶が刺激されたのか、はたまた突拍子もない考えだがあの時触れたオパールのせいか。

他人が聞けば馬鹿らしいと笑うかもしれないが、あの宝石に触れたとき聞こえた声。

あれが全ての引き金だったような気がしてならないのだ。


「エメラルド……」


触れてみようか、あれをルーク達が手にすることが出来たなら。

それで記憶に何の反応もないのならそれまで。

これまでの事は全て他者と久方ぶりに関わったことによるものであり、あの時の声も空耳だ。

けれどもしも、エメラルドに触れてまたあの声が聞こえたなら。


「私は、どうすればいいのかしら」


ただ悩むのは、実際に目の前の敵を倒してからでも出来る。

それにそろそろグリフォンもこちらに向かってくる頃だろう。

実際耳には翼のはためきが聞こえていたし、闇の者も痛みに身悶えつつ顔を上げ彼らの姿を目に映そうとした。


「でも邪魔をさせるわけにはいかないのよね」


尾はもう切り離されて使えない。

闇の者は基本的に模した物体の性質を完璧に再現するため、そうなれば次の武器は――


「やっぱり舌ね」


素早い動きで伸ばされた、おおよそ考えられないような長さの舌。

ただグリフォンは賢く、そして素早い動きのできる生き物だ。

現に今も上手く避けられたらしく特に悲鳴の類いは上がっていない。

ただグリフォンも間違いなく(一応頭部だけは)鳥。

残念ながら鳥目で、暗くなってしまうと殆ど周囲を見ることが出来ない。

今はグリフォンが飛べるギリギリの明るさだ。

そうなると今後の憂いを絶つためにもこの舌は、尾のように切り落としてしまうにかぎる。


一閃で舌を落とし、そのままの勢いを殺さず振りかぶって片足を裂いた。

ガクン、とバランスを失い巨体が崩れ落ちる。


「バルド、後ろお願い!」


「突然無茶を言うな!」


そろそろ頃合いだろうと声をかければ文句が飛んできたが、それでも彼は上手くタイミングを見計らい飛び降りて後ろ足を落とした。

同時に私は残ったもう一方の前足を使い物にならなくさせたため、敵は最早動くことが叶わない。

痛みに悲鳴を上げ頭を地面に打ち付ける様を見るに、さっさと終わりにした方が向こうにとっても良さそうだ。


「最後は僕の仕事ってことかな?」


それを同じくわかっているのだろう、ルークはそう言いながら殆ど無抵抗となった敵の頭部目掛けて飛び降り、そのまま自らの剣を脳天に突き刺した。

断末魔の悲鳴が上がり、ドロリと漆黒の身体が溶け出す。

闇の者は絶命する際こうして液状に変化するため、気を付けなければ身体中が液体まみれになるのもしばしばだ。

私が切り飛ばした尾と舌もとっくの昔に液状になって地面にぬかるみを作っている。

それにしても剣についた液を払いながらこちらへやって来るルークは先ほどまでとは打って変わって不機嫌そうで、私はつい首を傾げた。

取り合えず自分も地に降りてすり寄ってきたグリフォンを少し離れた場所に待たせておく。巻き込んだら可哀想だ。


「フィリアお前、なかなかの手練れだな」


「ありがとう。まあどうしてそうなのかは分からないけれどね。

それよりルークはどうしたの?

折角探していたエメラルドが手にはいるのに、ちっとも嬉しそうじゃないのね」


同じく剣を鞘に仕舞いこみながら近づいてきたバルドの言葉に礼を言いつつ尋ねてみれば呆れた顔をされた。


「そりゃあお前がほぼ一人で敵を倒すからだろう」


「何言ってるの?手を借りたじゃない」


「あんなものは手を貸したことに入らん。

ルークはあれでお前のことを心配していたんだが、蓋を開ければ自分以上の実力の持ち主でやきもきしているんだ」


「バルド、五月蝿い」


したり顔で言ったバルドだったが、すげなくルークに言い放たれ肩を竦める。

私はと言うとルークに睨まれ困惑中だ。


「フィリア、女の子があんな風に一人で敵と戦っちゃダメだよ。

怪我をしたら危ないじゃないか」


「それは男女差別じゃない?」


「いいの。それにそもそもエメラルドを探しているのは僕達なんだから、フィリアがあんな風に一生懸命戦ってくれる必要はないのに」


別に一生懸命という訳ではなく、あれはちょっとした軽い運動程度のものだったのだが……恐らくそれを言っても意味はないだろう。

つまり部外者はあまり立ち入る必要がないということを彼は言いたいのだろうし。


「あら、でも私もエメラルドが気になっているの。

それに早くあれを取り除いてあげないと木が可哀想だったし」


「それはそうかもしれないけど――」


尚も言い募ろうとするルークの肩をバルドが叩いた。


「そうガミガミ言うな。

実際助けられたんだ、礼を言うものだろう。

それにフィリアの言う通り早くエメラルドを取らなければいかん」


その言葉には流石に納得せざるをえなかったのか、しばらく押し黙ったルークは仕方がなさそうにため息を吐いて私の手をとった。

そのままぐいぐいと引っ張りつつエメラルドの埋まる木のもとへと進んでいく。


「まったく、心配したんだからね?」


「えっと、ありがとう?」


「いや、僕の方こそそう言わないといけないんだけどさ。

フィリア、怪我とかない?

木々も言ってた通りエメラルドは癒しの力があるから、簡単な傷なら触れるだけで治せるし、大きな怪我も触っていると治りが早くなるんだよ」


どうやら不機嫌は直ったようだとルークの顔や声音に胸を撫で下ろした。

何故か分からないが青の瞳で非難がましく見つめられると困ってしまうのだ。


「特に怪我はないわ。

でもだったらバルドに触らせるべきじゃない?

傷は塞がったと言っても今日の戦いで疲れているでしょうし」


「まあね、バルドにもちゃんと触らせる予定だよ。

でも先にフィリアはどうかなって。

それにオパールを触ったとき宝石が不思議な反応を示しただろう?

エメラルドだとどうなるのかなって、ちょっと興味があったんだ」


少し考えてみた。

自分の考えを言っても問題がないかどうか。

まあこの様子からいって彼は躊躇わず頷いてくれるだろうが。

何しろ警戒心というものがいまいち足りていないのだから。


「ルーク。怪我はしていないのだけど、エメラルドに触らせてもらって構わないかしら?」


「うん、問題ないよ。やっぱり気になる?」


やはり予想通り一も二もなく頷いた相手に苦笑する。


「そうね。……私の勘違いだったらいいのだけど、何だかオパールに触ったとき一部の記憶が戻ったような気がしたから」


「記憶が?」


「と言っても声が聞こえたくらいなのだけど。

でもその後も事あるごとにちょっとしたことを思い出すから、関係があるのかと思って」


正直なところ自分で言っていて荒唐無稽極まりない話だ。

けれどルークは考えるように瞳を伏せて頷くのだから困ってしまう。


「この宝石には女神の力が宿っていると言われているし、そういう不思議なことが起こるのもあり得るかもしれないね」


「そういうものかしら…」


「自分で言ったのにフィリアは信じてないの?」


「そういう訳でもないけれど」


ただその言葉の通りだと困ってしまう。

だってそうならばもしかしたら、私は。

ルークが立ち止まりこちらを振り返った。

いつの間にかエメラルドは目の前だ。

彼が少し離れた触れれば木の幹に埋め込まれていたはずの宝石は呆気なく彼の手のひらに転がった。

それを差し出しつつルークは首を傾げる。


「取り合えず、確かめてみたらどうかな?」


「…………その通りね」


考えても仕方がない。

これで記憶が戻ればそういうことだし、戻らなければ違うということなのだから。

何となく覚悟を決めてルークの手のひらに自分のそれを重ね合わせる。

一瞬遅れて身体をあたたかな力が包み込み、あぁやはり記憶が戻った要因はこれではないのだと安堵とも落胆ともつかないため息が零れたとき。

いきなり私の意識は暗転した。




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