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世の中

「誰だ、おばさん」


 ――噂通り、失礼な子ね。


「まさか」


 ――申し遅れたけど、諸井絵美子です。


「俺に何の用。諸井アンナの母親か? あいつの事故について?」


 ――頭良いわね。そのとおりよ。何か知ってることはない?


「知ってどうするんだ? 娘についての本でも書く気? わが子を交通事故で失って、って」


 ――本当にデリカシーのない子ね。


「ほっとけ。俺は、諸井が嫌いなんだ」


 ――そうなの?


「男子にはひそかに人気あったけどな? お嬢だっつって」


 ――高嶺の花だった?


「そうだな。日本一の内科医の娘ってことは周知の事実だったし、美人だったから」


 ――気の強い子だから、うかつに声もかけられなかったんでしょ。


「そうだな、それに残念ながら男はもういたんだが」


 ――えっ。


「へえ、あいつら親にも隠してたんだ」


 ――そんな様子、ひとつもなかったわ。


「周裕樹って言う。俺のクラスメイト。知りたくなかったなら、すまなかった」


 ――いいわ。その子は?


「普通に学校に来てるよ。実は死ぬ3日前くらいに別れてたんだ」


 ――どっちが、フられたの? アンナ?


「まさか。諸井がフられてあてつけに自殺したとでも? 違うぜ、あいつが裕樹をフったんだ」


 ――周君とあなたは仲がいいの?


「良いかどうかは別にして、小学生のときからのくされ縁だな」


 ――君には、教えていたのね。


「教えられてはないな。殊更嫌い合ってる風だったのにたまたま2人でいるところを見たんだ」


 ――どこで?


「確か隣町の花火大会だったと思う」


 ――向こう、気づいてた?


「うん。そこで口止めされたんだ」


 ――話してくれて、ありがとう。


「こんなことになったから、もう警察には話してあるしな。もう秘密とは言えないだろう」


 ――こんな形で秘密をばらされたくはなかったわね。私も、アンナも、それから周君も。


「言わない方がよかった?」


 ――ううん、ありがとう教えてくれて。ねえ、どうして花火大会みたいな、いかにも友達とバッティングしそうなところでデートなんかしてたのかしら。


「俺さえかわせば何とかなるって思ってたんだろ。服もいつもと違う感じだったから、他のやつならわかんなかっただろう」


 ――でも、いたんでしょ。


「ああ。ほんとは俺はあの花火じゃなく他の所でやってる祭に行くはずだったんだ。なんだが、たまたま気まぐれで行くことになってな」


 ――あなたの彼女と?


「そんなもんだ」


 ――ああ、お試し期間か何かだったのね?


「あたり。おばさん、鋭いな」


 ――まあね。


「あいつも、諸井もそうだった。妙に勘がさえててな」


 ――アンナとあなた、なんだか似てるわ。


「そうか?」


 ――ええ。ずばずば物言うところとか、頭の回転速そうなところとか。


「そうかもな。あいつは、そういうところを見せるやつはかなり選んでたけどな」


 ――多賀くんには見せていたの?


「いいや。俺の知る限り、裕樹にだけだな。俺はおこぼれにあずかって見せられたって感じだ」


 ――周くん、よくそういうところ見せられて卒倒しなかったわね。


「ああ、それは俺にも分からないな。よくあんな奴と付き合ったよ」


 ――話は変わるけど、アンナとあなたって、同じ部だったわよね? 文芸部。


「そう。俺、幽霊部員だったけど。10個くらい部活掛け持ちしてたから」


 ――なんだそりゃ。


「頭良いし、運動もできるし、試合や大会は人数合わせでひっぱりだこ。文芸部もほとんど顔出さずに、ページの穴埋めを手伝った程度でも部員は部員だ。寄稿したりもしたな。で、最優秀賞」


 ――慎みってものを知りなさいな。


「これでそんなもんまで知ってしまったら、俺の弱点がなくなる」


 ――かわいいんだか、かわいくないんだか。


「男だからかわいい方が問題だろ」


 ――えー。かわいい方がいいじゃない。子どもなんだから。


「おばさん、いるのが娘でよかったな。世間話しかする気がないならもう帰るぞ」


 ――ちょっと待って、最後に。


「何」


 ――ねえ、どうしてアンナは周くんと別れたのかしら?


「分かりません、自分からはうまくいっているようにしか見えませんでした。そういうことなら直接裕樹に聞いた方が」


 ――あなたの意見が聞きたいわ。


「おばさんに向かって言うことじゃないっていうのは分かってるんだけど、諸井の方がイカれてたんだと思う」


 ――何ですって?


「裕樹もものすごい変人だが、あいつはそれどこじゃなかった。人はあいつと一緒に明るい方へ行こうとしているのに、あいつは人が明るい方向へいくなら自分は暗い方向に行くのが道理だとでも思ってるみたいだった。おばさん、そういう風に思ったことはないか?」


 ――ないわ。あの子は幸せな子だもの。女の子らしいし、綺麗な子だし。今にとてつもなく良い男と結婚するわ。


「……おばさん、諸井アンナはもうこの世にはいないんだ」


 ――そうね、そうだったわね、いつになれば。


「俺の見解は一つ。おばさんには悪いが、諸井は精神的におかしくなっていた、以上」


 ――自殺だって言いたいの?


「その可能性も高いな。自殺しようとしてるところに、たまたま車の方からひいてきた。これがいちばん納得いく」


 ――ありえないわ。あの子が、自殺なんて。


「おばさんと話したってラチが明かない。もっと気になることがあるんなら、俺じゃなくて他の人に聞いて。じゃあ」


 ――……。



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