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世相

 ――今日は時間を用意してくれてありがとう、梅宮さん。


「いえ、いいですよ。周先輩、メールで先に時間を知らせてくれてましたから」


 ――うん。そう思ってメールしといたんだ。時間取らせるのも悪いし、さくさく行くね。


「よろしくお願いします」


 ――こちらこそ。梅宮さん、少し前に同級生が死にましたね?


「うん。諸井さんでしょ」


 ――そのことでインタビューなんだ。彼女についてどう思ってた?


「……なんていうかな、理解できない子って思ってました」


 ――どうして?


「うーん。……ああそうだ、彼女幸せになろうとしてなかったんです。幸せになりたいとも思ってなかったみたいで。綺麗なのに暗い子だった」


 ――幸せになりたいと思ってないってどうして思ったんですか?


「あたし、こういう話好きじゃない。他の話にしません?」


 ――すみません、これがインタビューの内容なんです。


「分かりました。例えばね、諸井さんは綺麗だけど、それは単に持って生まれた顔と環境のたまものでしかないって思うんです。もし彼女がこのまま生きていて、三十路半ばくらいになったら、きっと見る影もないでしょう。女の顔は領収書っていうし、年取れば取るほど、努力が出てきて生まれは消されていくの」


 ――僕は男だから、そういうのよくわかんないな。


「40台の人たちの同窓会をのぞけば分かる。小学校の卒業アルバムと見比べたらもっとね」


 ――そうか。女の子にとっては幸せになる努力のなかに綺麗になる努力っていうのも含まれているってことだね。


「はい。別に男性に媚びるわけじゃないですけど、やっぱりモテることで自分の価値を確認するところってありますし、女同士で集まるにしたって、やっぱり綺麗な子、かわいい子っていうのはどことなく上位に来るんです。綺麗になるということは幸せへの第一歩とだと思います」


 ――そういうの、男の僕に言っちゃうんだ。


「だって、周先輩はあたしみたいな子に興味ないですよね」


 ――他に、幸せになりたいって思ってないなって思ったところは?


「んー。難しいですね、なんとなくっていうのがこういうのは一番なんです。ほんと悪いなって思いますけど、諸井さんにはあんまり興味ありません」


 ――いえ、正直にありがとうございます。


「他にはありますか?」


 ――人によっては、死ぬ少し前から人に優しくなったとかそういう話を聞きますが。


「えっ」


 ――覚えはありませんか? ノート貸してくれたり、人の悩みに気付いたり。


「それ、女子が言ってました?」


 ――いや、男子だったと思う。


「そうだったのかもしれませんけど、あたしから見たら、優しくなったというよりは、前よりしっかり人に壁をつくるようになっただけって思いますよ」


 ――壁?


「本当に亡くなった人に対して失礼で申し訳ないわ」


 ――インタビューですし、これは録音されてませんから自由に話してくださっていいですよ。


「さっきも言ったんですけど、幸せになりたい人たちとそうでない人って、絶対になんとなくわかるんです。で、その両者が交わることはまずないんです」


 ――ええ。


「ノートを貸してくれるのも、あたしたちを助けたいとかそういうんじゃなくて、そうすることで上下関係をはっきりさせようとしているみたいに見えましたし、人に親切にするのも、なんか普通と違うっていうか……違和感バリバリで、ますます距離が遠くなる感じがしたんです」


 ――そう思ってるのはみんなも?


「みんなかどうかは分からないけど、あたしの周りではそうだったかな。友達とちらっとそんな話をしたことがありましたから。亡くなった時、本当に遠くに行っちゃったんだなって思ったんです」


 ――なるほどね。それなりにクラスでは諸井さんが死んだことは悲しんでくれたんですね?


「何でそんな当たり前のこと言うんですか。昨日まで当たり前に授業を一緒に受けていた同い年の女の子がいきなり亡くなって悲しまないわけないじゃないですか」


 ――そうだね。よかったよ。ところで。


「何?」


 ――彼女は自殺が疑われてるって知ってました?


「それで、インタビュー?」


 ――いや、それとこれとは別件だ。


「知ってる。でも自殺はありえないでしょ」


 ――そうですよね。


「ええ。普通自殺するならたまたま車に轢かれたりしないって思う。諸井さんてそういうところしっかりしてそうだし」


 ――自殺した、というのは違和感がないってことですか? 手段がおかしいだけで。


「はは。そういうことです。するなら確実に逝けて、人に迷惑出来るだけかけない方法を選ぶんじゃないかなって」


 ――それは警察も言っていました。ただ、状況がおかしいって。


「はい。それはみんなも狐につまれてました。どうして、ロッカーに何にも入ってないんだって。まるで死ぬって決めていたみたいじゃないかって。だから、自殺説が浮上したんですよね?」


 ――そういうことです。それにそれだけじゃなかった。


「えっ」


 ――彼氏ともいきなり別れたようです。


「え! 彼氏なんていたんですか?」


 ――はい。


「ちょっと、初耳ですよ? 誰です?」


 ――そこまでは、教えられません。


「そうですか。……それなら自殺疑われても仕方ないかも」


 ――でも、偶然だと思いますよね?


「はい。単に過去の自分が嫌で嫌でたまらなくなって整理してたら車にはねられたって考える方が自然じゃないですか?」


 ――多数派はそういう意見ですね。


「普通に事故で死んだのに、自殺なんて思われてたら可哀そうです。早くその疑いが晴れるといいですね」


 ――ええ。……ありがとうございます。


「もうそろそろおしまいでいいですか? あたし、用事ありますし」


 ――分かりました。貴重な時間とお話しを、ありがとうございました。


「じゃあ、失礼します」


 ――失礼します。






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