来世
2.来世
――今日はあなたにインタビューをお願いしたいのですが、今お時間よろしいかしら? 黒江広海くん。
「はい。すみませんが、どちら様でしょう?」
――ご想像にお任せします。ヒント、あなたもご存じ同級生の女です。
「……まあ、いいや。大したことじゃないですよね?」
――こちらとしては、大したことではないつもりです。
「分かりました。回答拒否することもありますが」
――大丈夫です。それに、このインタビューは誰にも内容が公開されることはありませんから。
「何のためのインタビューなんですか?」
――私的な調査のためです。データになるだけで、あなたの発言とは分からないものになります。
「そういうことだったんですね。では」
――早速行きましょうか。一人同級生の女の子が亡くなりましたね、
「もちろん。諸井アンナさん。休みの日に車に轢かれた。同じクラスなんで彼女のことはよく覚えています」
――どんな子でしたか?
「綺麗な子でした。あまり親御さんに構われている感じじゃないですが、やっぱりお嬢様育ちだからかなあ、彼女はとても品があったんです。みんなに遠巻きにされていたくらい」
――それは、ありがとうございます。彼女が死んだとき、あなたは正直どう思われました?
「……誰にも言わないでください」
――言いませんと最初に言いましたが。
「あの……えっと、気ちがい扱いしないでください。前世の因縁かと思ってます。というのも、僕は自分の前世を覚えているんです。その前も」
――まあ。
「自分は前々世は僧侶、前世は名もない農民でした。自分もそうだからそう人も感じているに違いないって思うんです。みんなどこかで前世を感じているって」
――それで、そのことが諸井アンナの死と、どう関係あるのかしら?
「彼女、死ぬ前の行動が普通じゃなかった」
――普通じゃないとは?
「なんていうかな、ものすごく優しくなったんです。世のため人のためを極めたみたいに。……そこで思ったんです。彼女、何かの理由で自分の前世を知って、このままだと殺されるとか、自分にとって物騒な未来になるって気づいたんじゃないかって」
――死にたくないから、行動を変えて死なずにすむよう頑張ってた、ということかしら?
「はい、そうです。それまでは、綺麗ではあったんだけど、どこか厳しいっていうかきついっていうか、そういうところがあって、間違っても関わりたくはなかったんです」
――へえ。彼女も無意識のうちに自分の業を自覚した、と。
「間に合わなかったみたいですけど」
――ちなみに、どんな前世だったと思うの? 彼女のカルマって?
「分かりません。ただ、彼女の元の性格からして、暴君の王妃様とか。いや違う、王様を後ろから操って影の支配者と化していたお姫様とか」
――それって、ただのイメージって言わないかしら?
「そうですね。すみません」
――いいわ。質問の角度を変えましょう。具体的にはどう変わったのかしら?
「まず、人に親切になりました。クラスメイトにも宿題でやってないところがあったらってノート貸してあげていたり、落ち込んでいる人に気付くのも彼女が一番になってたんじゃないかな。その人と仲が良い人に教えて、何もかもスムーズにいくようにしてくれたり。全てに対して優しくて」
――……。
「どうしたんですか? 何か?」
――いえ、虫にさされたのかむずかゆくて。
「大丈夫ですか?」
――ええ。ありがとう。彼女のお葬式ではみんなどうしてましたか?
「最近あんなふうに親切になってたところだから、みんな悲しんでましたよ。通夜に行った人はいませんでしたが、学校のなかで彼女とクラスメイトだったことがある人たちみんな葬式には顔出してました。
――そう。あの、さっき言ってたこと以外に彼女の行動で不自然だった点はありませんか?
「今思い出せるのはそこらへんだけですね。他にあったら連絡しましょうか?」
――いえいいわ。十分よ。
「すみません、あなたはどこからかけているんですか? 非通知とも表示されてないし、そちらのナンバーがディスプレイに出てないんですけど」
――うふふ。うふふふふふ。
「あなたは、もしや諸井」
――ご回答ありがとう、ク・ロ・エ・ヒ・ロ・ミ・君。