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世を、こえて

 ――トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル………

――おかけになった番号は現在使われておりませ

ガチャ。 ツー ツー ツー ツー ツー ツー ツー ………




 ――トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル ………

――

ガチャ。 ツー ツー ツー ツー ツー ツー ………




 ――トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル ………



「もしもし、アンナ? ケータイ解約されちゃったんだね。時間がたったってこと、実感するわ」


 ――……。


「ううん、あたしは大丈夫よ。出会いの一歩は別れの一歩ってわかってるもの」


 ――……。


「絵? うん、今も描いてるわ。アンナは嫌がるかもしれないけど、今アンナの絵をかいてるの」


 ――……。


「もちろん、綺麗な絵よ。実物よりもきれいかもしれないわ」


 ――……。



「あんなことになっちゃったから、最後に純白の羽を付けてあげる予定よ」


 ――……。


「まさか。猛禽類なんかにしないわよ。獰猛な天使なんか見たくないし」


 ――……。


「ありえないわ、地獄なんて」


 ――……。


「んーたぶんちょっと人恋しいのかもね」


 ――……。


「当り前。轢いた相手が他の誰でも、きっと別れてたと思う。もし事故を起こさなくても、結局別れたと思うな。勇気や度胸がない人って駄目ね。あんな人と付き合ってた自分、本当に見る目がなかった」


 ――……。


「いいわ、それはどうでもいいの。もうこの世にアンナはいないってことは分かってるから。もうこんなことするのも最後よ」


 ――……。


「きっとまた、いつか会うわ。絶対会える。信じてる」


 ――……。


「うん、そうね。実はアンナは長生きしないだろうって思ってた。だって、目を離したらここぞとばかりに地獄めがけて一直線に飛び込んでいきそうなイメージがあったから」


 ――……。


「生きてる間にこんなこと言えない」


 ――……。


「助けてあげられなかったこと、悔しくないって言えばうそになるわね。あの子のことも」


 ――……。


「そこにいる? 小学生の時、あたしたちいつも一緒だったわよね。これからも、ずっと仲良くする気でいたのに」


 ――……。


「今でも、そちらに行ってもアンナは気にしてそうよね。あなたのせいじゃないのに。増水した川に傘を落として、思わずあの子ってばそれを拾いにいって、取ったところで落ちてそのまま溺れちゃった」


 ――……。


「わかってる。生きてるうちに、そうじゃないってことを説得したかったんだけど、できなかったわね」


 ――……。


「ごめんね、余計なお世話ばっかり。でも、世話焼き続けられるなら、ずっと焼きたかったわ。あの事件以来、アンナは何か全部変わっちゃってたけど、自分が幸せになることを肯定してほしかった」


 ――……。


「持つわよ、持つ。あたしは世話を焼いたからって手が焼け切ったりしないわ。今までだって、よろこんでそばにいたんだから。アンナが死んだことで寿命が縮んだんじゃったくらいよ」


 ――……。


「そうね、アンナ。いつか顔付きあわせて笑える日を待ってるわ。大丈夫、宇宙から見たら70年くらいあっという間よ。塵も同じ。アンナや、あの子の分まで生きる。だから、ほんのすこしだけ、待っててね」


 ――……。


「幽霊と話せる力があればいいのにって思うけど、そうね、アンナはいやがるから無くてよかったのかも」


 ――……。


「カマかけてただけだったのに。あいつ、一体あたしを何だと思ってるのかしら。超能力なんてあるわけないのにね。いろいろつなぎ合わせてあいつが犯人って可能性があるから、ふざけてやってみただけなのに」


 ――……。


「違ったら、どっきりよって言ってやるつもりだった。実際、よくそういうことやってたから、不自然じゃなかったし」


 ――……。


「あともう少しね、あいつが出頭しなかったら警察に言ってやる。不審がられたってかまやしないわ」


 ――……。


「大丈夫って、あたし、何もしなくてもアンナと同じところに行くわ」


 ――……。


「うん、ありがとう。また、いつかね」


 ――……。




 ――……待ってるわ、いつまでも。




あとがき


自作語りは恥ずかしいのですが、それなりに思い入れがある作品ですので、遅ればせながら書いてみようと思います。


ところで、半月ほど前、塀野は交通事故をしました。しました、と言うとおり、前方不注意で他の車にぶつかったのです。ただ、駐車場でスピードは出ていなかったので、こちらも相手も無傷でした。


それは会社の昼休みに出たときのことだったのですが、そのようなことになっては、昼から休まないわけにはいきません。保険に電話したり、ディーラーに電話したり。

幸いだったのは、昼に外出する前、退社するときみたいにデスクを整理整頓しておいたこと、パソコンのウィンドウを全部閉じておいたこと、ごみ箱のごみを捨てておいたこと。いつもなら、絶対してないことばかりです。きっとパソコンの電源を落としてくれた上司も、きちんとしすぎていて少し不審に思ったことでしょう。

これを人に話したところ、「予知か!」と言われました。予知していたら、ハナから事故しないようにしてますって(笑)

……はい、お察しのとおり、このことがこの話の大本になっています。


そのとき読んでいた夢十夜にならって、全十話に。

真相に少しずつ近づいて行けるように、関係の薄い人から、関係の深い人に話し手が変わるように。

バッハが愛したシンメトリーを模して、聞き手と話し手が左右対称になるように。気づかない人も多そうですので、下にまとめます。左が「」で書かれている話し手、右が――で書かれる聞き手です。


1話 …柊誠X瀬尾悠

2話 …黒江広海X諸井アンナ

3話 …梅宮朱理X周裕樹

4話 …多賀定典X諸井絵美子

5話 …山野景X諸井義明

6話 …諸井義明X山野景

7話 …諸井絵美子X多賀定典

8話 …周裕樹X梅宮朱理

9話 …諸井アンナX黒江広海

10話…瀬尾悠X(諸井アンナ)


最終話は、どうしても誠と悠がまた話す理由が思いつかなかったのと、その展開にこだわるとなるともっとどろどろした話になりそうでしたので、ここは主人公アンナにかからない電話をさせたのですが。


ほとんどのキャラにはモデルがいますが、あえてここでは語りません。当ててみてください。

拙作をお読みいただき、ありがとうございました。少しでも楽しんでいただけていたら、うれしいです。


それでは、皆さんも交通事故にはお気をつけて。



塀野実亜


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