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この世

 ――トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル


「もしもし」



 ――もしもし、こんにちは。


「……どちらさまですか」


 ――ハルカよ。彼女の声もわかんないの?


「すみません、ちょっと声が違う気がしますけど」


 ――気のせいでしょ。ていうか、誠に敬語使われるなんて気持ち悪い。普通にして。


「ああ、悠なんだな間違いなく」


 ――そうよ。あたしよ悠よ。あんたの彼女だった悠。今日、キャンプのデートをドタキャンされた悠。文句ある?


「ない。どうした? 今日は、いけなくなったことは、メールしたんだが。届いてなかったのか?」


 ――とっくに見たわ。そういう話じゃないの。


「……何の話?」


 ――インタビューよ。


「……は?」


 ――だから、インタビュー。電話切らないでよ。切ったらすぐにあんたのところまで出向いてやるから。


「どこにいるのかわかるのか?」


 ――わかるわ。キャンプであたしと行くはずだった、山小屋でしょう? あたしをのせるはずだったレンタカーといっしょにそこにいる。早く返しに行かないといけないのにね。


「どうして」


 ――伊達に彼女やってないのよ。今日はあたしがあなたにインタビューするんだけど。ねえ、分かってる?


「わ、わかった。何のインタビューだ? 大学生の生活について?」


 ――そんなんじゃないわ。


「じゃあ何の」


 ――わかってるくせに。


「切るぞ……」


 ――安心して。あたしからは、警察にはもちろん、誰にもいわないわ。言ってもしかたないもの。


「えらそうだな。らしくもない。あの子の、諸井アンナの影響か?」


 ――作っている自覚はあるわ。こんな態度を取るのは今だけだし、あんたにだけよ。あたしなりのお弔い。


「……で? インタビューって?」


 ――親友を、轢いたわね?


「えっ?」


 ――今日の朝、あたしの親友を、諸井アンナを轢き殺したわね? そして、そこから逃げたわね? 救急車も警察も呼ばずに。もしすぐに助ければ、あの子は死なずに済んだかもしれないのに。


「……あれ、悠の親友、だったのか……」


 ――知ってたら、轢き逃げしなかった?


「……」


 ――どうしてそんなことしたの?


「初めての道でそこにわきから道が伸びていることに気付かなかったんだ。彼女のことも良く見えなかった。気が付いたら、彼女が道から出てきていて」


 ――違う。なんで逃げたのかってことよ。


「怖くなったから」


 ――それだけ?


「これから起こることを一瞬考えた。自分の未来が真っ暗になったんだ。もし逃げられたら、何事もなく今までの生活を続けることができるかもしれないって思ったんだ。うらまれたくないし、怒られたくない」


 ――あれだけのことをしながら、恨まれたくない怒られたくない、ですって? もしかしたら、助けられたかもしれないのに。ねえ、仮にごまかせたって精神的に、耐えられるとでも? 堅実そのもので真面目しか取り柄がないあんたが。


「刑務所に入れば、償いきれる罪なのか? 出たら、人殺しとして以外の人生が開けるのか?」

 ――へえ、なるほどね。だったら、勇気を振り絞って出頭する人は刑務所でお勤めをこなせば許されると思ってる、おめでたい人ってわけ?


「違う」


 ――じゃあどうなの?


「怖い。現実と向き合えないんだ」


 ――それで、へこんだ車をレンタカーに戻しに行くのも恐ろしいのね。


「……ごめん」


 ――まるで他人事ね。あんたの言葉には誠意はないわ。誠って名前のくせに。


「どうすればいい」


 ――自分で考えれば? 丸める頭はなかったわね。あんたもともと坊主頭だし。ねえ、覚悟決めたら?


「……わかった。警察に行く。……ほんと、悪かった」


 ――あたしに言わないで。アンナは戻ってこないもの。あたしもう二度とあんたに会わない。電話も、これっきりよ。


「そうか」


 ――ちゃんと行きなさいよ、あたしは何にもしてあげられないし、してあげる気もないけど。警察に行ったかどうかの確認くらいはするかもね。


「ああ。今から出頭する」


 ――じゃあね、さようなら。


「ああ。……ちょっと待て切るな! 電話、ありがとう。今までのことも。僕は」


ガチャ。 ツー ツー ツー ツー ツー ツー





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