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第5話

 突然だが、前世での幼少期は保育園に通っていた。


 近所に親戚がなく共働きな両親にとっては、遅くまで預かってくれる保育園一択であっただろう。実際、私は通称“夜組”と言われる遅くまでいる子供の一人であった。

 寂しくなかったといえば嘘になるが、通っていた保育園が“子どもは遊びから学ぶ”という方針から子供同士を自由に遊ばせたり、農業や飼育といった体験を重視した運営を行っていたために、帰るときにはクタクタになっており親に今日あった事を報告しながら夢の中へ、という日々を送っていために寂しさを自覚する暇がなかった。

 今では「危険だ!」と過保護な親達の影響もあって、実践しているところは少ないだろうけど、今になって思い返せば楽しい日々であったと記憶している。


 なので今世でも……と思ってみるも、まず私立大学附属の幼稚園という所謂セレブ幼稚園に入園した関係上、そういった泥だらけになって遊ぶということはしないだろうし、逆に“お勉強”が増えるので期待できないだろう。


 仮に、そういったカリキュラムを取り入れたところだったとしても、私は参加できない。

 というのも、少し前に話した“現在も親に迷惑”という話に繋がる事で、乳幼児期の現実逃避していたことからくる危篤状態だったことが原因なのか、少し身体が弱いのである。

 日常生活を送る分には現在も通っている病院の検査から、特に問題ないとの事で、逆に多少の運動を進められている―――それゆえの父親とのプロレスごっこだったりする―――が、加減を間違えてしまうと直ぐに発熱し、下手をすればその場で倒れてしまう。

 普通であれば体調面で不安のある子は、私立の幼稚園では入園しずらい状況なのだが、幸か不幸か私の“天才騒ぎ”を知っていたらしく、入園試験も高評価で合格したことから、体調面による採用の可否は不問となったらしい。

 現在進行形で少子化が問題になっている昨今、附属幼稚園とはいえ学校側も生徒の確保や囲い込み等に四苦八苦しているのだろう。


 さて、そんな幼稚園に入園して2年目の私は、現在綱引きの道具と化していた。



「駄目!優衣ちゃんは私とママゴトするの!!」

「ズルイ!愛ちゃん、昨日も優衣ちゃんとママゴトしてた!!」

「ちーちゃんだって一昨日、優衣ちゃんと絵本、ずっと読んでた!!」



 私と一緒に遊ぶ事についてショートヘアとセミロングの女の子二人が、私の手を掴み引っ張りながら言い争いをしており、止めたいところだが毎日のことであり子供同士の喧嘩に毎回仲介しにいくというのも子供等の成長面で良いことはない(という建前で、面倒なだけだが……)。

 ちなみに、ショートヘアの子は、笹村ささむら 愛華あいかちゃん。セミロングの子は、漆原うるしばら 千尋ちひろちゃんと言う。

 入園式の時、私を含めた三人の親達が高校時代の同級生だったことが判明し、以後家族ぐるみで付き合いのある子達だ。

 そんな事情もあり幼稚園の教員や他の子の親からは、運動が出来てリーダーシップのある愛華ちゃん。頭が良くて協調性のある千尋ちゃん。そして病弱で物静かな私を含めた三人は共に行動することが多いために、一つのグループとして認知されている。

 ちなみに同じ園児達からは、男児女児分け隔てなく人気な二人がいることもあって、孤立しているわけではない。というか、一部からは何故か愛玩動物として扱われているのに少々……いや、多少……いや、大いに不満だ。 私は犬や猫じゃないんだから、撫でるのはやめてもらいたい!



「それじゃあ、優衣ちゃんに決めてもらおう!」

「うん。それでいいよ!」

「……え?」



 いつもなら二人だけの言い争いの末に、言い勝った方が主張した遊びをするという終着点をみせていた口論が、今回は何の前触れもなく私に矛先が向いてしまい。ついつい間抜けな声を出してしまった。

 ある意味で私も当事者であるとは言え、第三者の言葉を聞いてみるという選択をしたことに二人の成長を感じて少し勘当してみたりするのだが、この状況ではどちらを選んでも納得してくれないだろう。

 ということで、三つ目のアイディアを出すことで納得してもらうとしようか。



「……今日は、お絵かきしない?」

「優衣ちゃんが、そういうなら……あっ、それじゃあ私の似顔絵描いて!!」

「あっ、ズルイ!私の似顔絵も描いて!!」



 子供と言うべきなのか、私と遊ぶという目的が達せられれば何でも良かったのか、すんなりと三つ目の案が通ったかと思えば引っ張り合っていた時とは逆に、息の合った行動で画材置き場へ楽しそうに引っ張っていく。

 だが、ただでさえ二人の運動神経は他の子より良いのに、身体のバランスをとるのに必要な両腕を拘束された状態で、強制的に走らされる病弱な私は必死である。

 幸いにも頭が覚えているからか、体力はなくても瞬間的な運動神経の良さは幼稚園では随一なので転倒という最悪の事態は免れたが、神経を多大に磨耗したために、到着した時には既に疲労困憊。

 私を気にかけてくれるだけでも感謝してはいるのだが、できれば二人には私の体調面の気にかけて欲しいと思ったりする幼稚園生活である。

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