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第3話

 珍しく、メディアからの出演&取材依頼“攻撃”がない平日。

 同じ珍しく、平日なのにいる父が運転する車に揺られ、俺は母と共に何処かへ向かっていた。


 何故、行き先がわからないのか。

 目を覚ましたら、「優衣、出かけましょうねぇ~」とか言われて、外出用と思われる服を着させられたあと、母に抱かれて車に中へ……だったからである。

 これで、行き先が何処なのか分かるほうが凄いというか、エスパーとかそういう類だろう。


 定期健診は先日に行ったばかりであるし、結果に何かしらの心配点があったとして、二人の会話や表情からは、そういった不安のようなものは感じられない。

 何より、チャイルドシートに寝かされている体勢から見える景色が、病院へと向かっていないことを証明していた。



「それにしても、久しぶりねぇ」

「そうだな。優衣の事があったし、一年ぶりだな」

「優衣~。あと少しで、お爺ちゃんとお婆ちゃんに会えるわよぉ」



 母が俺の頬を軽く突きながら、話しかけてくる。

 ―――なるほど。祖父母へ元気になった孫娘たる俺の、お披露目会をするわけか。

 確かに、俺が生まれたばかりの頃は外出など持ってのほかであったし、体調が落ち着いてからはメディアからの“攻撃”で、外出もままならない状態だった。

 たぶん定期健診から現状は問題なく、お邪魔虫も来る気配はない……うん。良い条件である。


 そして、母の口ぶりからして父方の家に行くようだ。

 はてさて、ダンディな父の両親とはどんな人なのだろうか?少し楽しみである。



「う~うっ!あ~あっ!」

「あらあら、優衣も会うのが楽しみなのね」

「あ~う~」






********************






 閑静な住宅街にあるうちの一軒。

 白とクリーム色を基調とした外観、家の周囲を綺麗な花や木が植えられ、家の横には車庫があり、父が携帯で何か操作をするとシャッターが自動で開き、いかにも高級車っぽい黒い車が一台停まっている内部が露になる。


 ……え?何この豪邸。

 両親の生活ぶりや家の間取りを見る限り、自分は比較的裕福な家の子とは思っていたけど、祖父母のこれは少し予想外である。


 そうこうしているうちに、父は慣れた感じで高級車が停まっている車庫へと車を入庫。

 母も特に緊張せずに、俺をチャイルドシートから自身の腕の中へと移動させると、俺の着替え等が入ったバックを持った父の後へと続いて、車庫の脇にある階段を上っていく。


 すると、すぐに扉が見えてきて、父がノブに手をかける前にひとりでに扉が開いた……否―――



「あらあら、幸樹に葵さん。よく来たわねぇ」

「母さん、ただいま」

「お義母様。お久しぶりです」



 両親にとっての母(義母)であり、俺にとっては祖母にあたる女性が、俺たちを出迎えるために扉を開けたのだ。

 そして、挨拶もそこそこに祖母は母に抱かれた俺の顔を覗きこみながら、これでもかと言う位の笑顔で俺を出迎えてくれる。



「まぁまぁ、葵さんに似て可愛らしい顔ねぇ。でも、目は幸樹に似てきてるわねぇ」

「あ~~っ」

「そうですよ~。優衣ちゃんのお婆ちゃんですよぉ~」



 ……孫馬鹿である。

 俺が挨拶をするために、手を挙げればハイタッチのつもりなのか指先で俺の手を突く、練習しておいた笑顔を向けると余程嬉しいのか、何度も俺の両親へと自分に笑いかけてくれたことを連呼している。


 それにしても、祖母は父にそっくり……いや、父が祖母にそっくりだ。

 背格好や顔のつくりは違っているのに、性格も違うというのに、それらが些細な事だと思わせるほど雰囲気が似ているのだ。

 だから、祖母は良い人であるだろうと直感で感じられる。


 とまあ、人間観察をしている俺をよそに、玄関先で戯れていた時に気づいた祖母は「あらやだ。私ったら」と、頬を軽く染めながら俺たちを家へ招く。



「ああ、よくきたな二人―――いや、三人とも」

「ただいま。父さん」

「ご無沙汰しております」



 リビングへと向った俺たちを出迎えたのは、数十年後の父と思わせるような渋い笑みを浮かべる祖父。

 一人掛けの椅子に座りコーヒーを口にする姿は、絵になる光景である。そして俺が、父は二人の遺伝子を確実に受け継いでいる……そう確信した瞬間でもある。



「あ~う~っ」

「優衣か。最初の頃に比べて、随分と元気に可愛らしく育ったな」



 両親に習って祖父へと挨拶をする俺に、笑みを深くした顔で応えてくれる。

 祖母とは違いスキンシップをとるようなことをしてこないが、こういった場合は初孫……それも女の子である俺に、どう接するべきか悩んでいると言ったところだろう。


 そんな考えを証明するかのように、祖母に「抱いてあげればいいのに」という言葉と、母の「抱いてあげて下さい」との言葉に、二人の言われたからという体裁を見せつつも、何処かおっかなびっくりといった感じで俺を抱き上げると、渋めの笑顔が途端にデレっとした笑顔に破顔した。


 ……うん。祖父も孫馬鹿である。

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