小さい桜
元々短編の予定ではなかったものを一話で切ったものなので、起承転結も何もないです。
「お爺さん、今から桜を植えても花が咲くのをみれやしませんよ」
「良いんだよ、儂らが見ることができなくても。この子が百年、二百年と生きてこの神社を彩り続けてくれればそれで」
「お爺さん、こんな山奥の神社に植えたって、誰も見に来やしませんよ」
「なぁに、そのうち大きな樹になって、沢山の人が見に来るような桜になるさ。そうなるよな? サクラ――」
――はい。
きっと……きっと多くの人が見に来るような、大きな大きな樹になって。私の花びらでこの境内を飾って見せます。
だから安心して見ててくださいね……お爺さん。
――お爺さんは私が芽吹いてすぐに姿を見せなくなり。お婆さんもお爺さんについて何処かへ行ってしまったのか、すぐに私を世話をする人が居なくなりました。
誰も世話をしてくれる人が居なくなってしまった私は、枯れそうになりながらも、お爺さんの想いを胸に必死に耐えて……。お爺さんの居なくなったこの場所へ引っ越してきた息子夫婦とその子供が来たときは、安堵のあまり気を抜いて、折れてしまうところでした。
あれから幾度となく春が来て、今はお爺さんのお孫さんが世話をしてくれています。
そう、幾度も春が来ているにもかかわらず、私はいまだ……――
「悪いな、わざわざこんな山奥まで大掃除を手伝いに来て貰って」
「まぁ、親友の頼みとあればな。流石にこれだけ大きいと大変だろうし」
若者二人が拝殿から出てくると、一人が目の前にある桜の木へと目を向けた。
「……なぁ、お前のお爺さんが亡くなる直前に植えたって言うこの桜さ、少しは大きくなったけど、やっぱり今のところ咲きそうにないよな」
小ぶりなその桜の木は、まだ一度もその枝に花を咲かせたことはなかった。
(私も毎年がんばって咲かそうとしてるんですけど、ね……)
段々と肌寒くから凍えるような風になってきた冬の風が吹き、少し申し訳なさそうにその木は揺れる。
「はは、小さい頃に雨にも風にもさらさず大事に育てすぎたのかもしれないな。」
(確かに、過保護って言っても良いくらいでしたね。 ちょっと恥ずかしかったです。。。)
少年は、台風の中幼い木を守ろうとして吹き飛ばされたり、取り付いた虫を剥がそうとして毛虫まみれになったりしたことを思い出して苦笑いをし。
その桜の木もまた、同じことを思い起こして恥ずかしくなったかのように、風を使って身を捩る。
「……やっぱり隣町から桜の木を貰ってきた方が良いんじゃないか? こんな目立つところに植えてあるなら、もう少し大きい方が見栄えも良いし。この子が花を咲かせてもなぁ……タダで譲ってくれるって話なんだろ?」
(え……)
もう一度風が吹いて、今度は不安げに、悲しげに桜の木が揺れた。
「その話はなしだって言っただろ。小さくてまだ一度も咲いてないからって、この子を切り倒したりなんて俺には出来ないし。そもそも、俺が大切に育ててきたのはお前だって知ってるだろ? 俺は、こいつがきれいな桜の花を咲かせるところが見たいんだよ」
(――さん……。)
「おまえがそう言うなら俺は良いんだけどよ……。村の人達はこの村にも桜が! って、咲くのを毎年毎年待ってるんだぜ。それに、お前が見たいのは花よりも、自分の育てたサクラに集まる人達だろ」
この年から親馬鹿かよ。と、少しからかうように少年が少年をつつく。
「ふん……サクラがきれいな花を咲かせるのが楽しみなだけだっての。そもそも、初詣くらいしか神社へ参拝にも来ないくせに、桜が咲いたら花見にくる気なのかよ?」
(たとえ、言葉や意思を交わすことが出来なくても――)
拗ねたように、つつかれた少年はそっぽを向いた。
「まぁまぁ、お前がその子を大好きなのはわかったから落ち着けって。素直じゃないやつだなぁ……」
(―― たとえ一人であろうと ――)
「そんなんじゃないって。でも……きっと、今年は咲くよ」
「なんでそんなこと言えるんだよ」
「何となく、そんな予感がするだよ。そうなるよな? サクラ――」
『……はい、きっと』
「え……?」
「どうした?」
「いや……なんでもない」
(――あなただけでも、私の咲かせる桜の花を見たいと思ってくださるのなら、きっと……)
この後は紅い花を咲かせたり人になったり枯れたり伐られたりする……んだけど。
アレ? 短編のほうがマシな気がしてきた。
ちなみに。
桜を種から育てると、花が咲くまでに時間がかかったりするんだとか。
この話を書くときに調べたのはそれだけ。
ただ、このさくらは一度枯れそうになったから体が小さいのです。
ロリコンだからそうしたとか、そういうことじゃないですよ。たぶん。