4.1計画
私は今現在、ある計画について調査をしている。今回は、その計画についての今までの成果をここに書き記した。私に万が一のことが起こった時、私の行ってきた調査が無駄にならないようにするため、この手記を貴方に送った。私の勝手といきなり長々とした手紙を送りつけることを許して欲しい。
それでは、本題に移ろう。
貴方は「4.1計画」というものをご存知だろうか?私がこの計画を初めて知ったのは、ひと月ほど前だ。
ちょうど、伝統的な文化や語学の勉強のために、今現在滞在しているこの国に留学してきたばかりの頃であった。私は、私のホームステイ先の○○一家(ここでは安全を考慮し、名前を明記することは避けておく)の一人娘であり、私の一家と交換留学の契約を結んでいるアンとお互いの国の文化の違いについて、話をしていた。
「へえ。あなたの国にはそんな文化があるの」
アンはもともと大きな目をさらにまるく広げて私の話を聞いていた。私の国の食事の際のマナーについて話していたときだった。食前に口笛を吹いて神へのお祈りをする、という風習はそんなにも珍しいものだったのか。驚いた。私は、アンの不思議そうな表情がたまらなく楽しくて、話を続けていた。
「うん。そうだよ。私も、これがそんなに珍しいことだなんて知らなかったよ」
私たちはそんな他愛もない話をしていた。
私があんな馬鹿な質問をしなければ、私たちふたりはこのまま楽しい会話を続けていたのだろう。
「アン、この国のこの時期だけの文化とか、何かある?」
私の質問に、アンは少し困った表情を浮かべる。
「そうねえ、何かあったかしら」
アンは、腕を組んで考え込んだ。そして、あ、と声を出して明るい表情になった。
「ねえ、あなたはヨンテンイチケイカクって知ってる?」
彼女は唐突に私に尋ねた。
ヨンテンイチケイカク? そんなもの、聞いたことがない。計画、と付くからには何かしらのプロジェクトなのだろう、と私は予測した。
「知らない。聞いたことすらない。それって、どんなプロジェクトなの?」
アンは笑って答える。
「そんな、プロジェクトだなんて大げさなものじゃないわよ。ただ、ちょっと一部の人には酷な計画かもしれないわね」
アンは苦笑を続けながら、ヨンテンイチケイカクのあらましを語ってくれた。
ヨンテンイチケイカク。字を正すと4.1計画。4.1は日付のこと、つまりは4月1日のことだそうだ。また、4.1計画という呼び名はアンとその仲のいい数人だけの呼び方だそうで、他の人には決してばれてはいけない計画だということがアンの話からうかがえた。
これは世にも恐ろしい計画で、一部の者は心をぽきりと折られ、また一部のものは泣き叫ぶという恐ろしい現象に見舞われるらしい。方法や手段は様々だが、計画の目的は全て同じ。人をだますことにあるらしい。そして、さらに恐ろしいことにはそんな悲嘆や悲愴、驚嘆に包まれているものたちを鼻で笑うような輩が大量発生するのだそうだ。
「なんということだ! そんなこと、人間業だとは思えない!」
私がそう答えると、アンは楽しそうにけらけらと笑っていた。
「初めて聞いたあなたにはひどい話に聞こえるかもしれないけれど、笑うほうに回るとね、意外とハマっちゃうものなのよ」
彼女はそんな恐ろしい言葉をつむぐ。その顔は好奇心に満ちた笑顔に埋め尽くされていた。そして驚きと恐怖に言葉が出ない私に対して、アンは再び楽しそうに話しだした。
「そうねえ、こんな説明だけ聞いても分かりづらいわよね。そうだ! 具体的な例を出せばいいんだわ」
アンは少しの間考え込む。私は彼女は次にどんな恐ろしいことを言い出すのだろう、と恐怖におののいていた。具体的な例、と言ったか。つまり、彼女はこれから、その世にも恐ろしい計画の一端を口にしようとしているのだ! なんと恐ろしいことをするのだろう。しかも、こんなに楽しそうに。
そうだ。もしかすると彼女はこの華奢な見た目に反して、どこかの組織の優秀なスパイとかなのかもしれない。そんな考えが頭をよぎった。
「そうだわ! タケシの話をしましょう」
アンは瞳を輝かせながら、一言も詰まることなくつらつらと語り始めた。
「まず、タケシについて説明しなきゃね。タケシはね、私と同じクラスの男子なんだけど、好きな人に告白してはフラれまくってる、ちょっとかわいそうな子なの。まあ、タケシもフラれたらすぐに新しい女の子に目が行っちゃうんだからそんなにかわいそうでもないわね」
アンは楽しそうに語り続ける。
「だからね、去年の4.1計画のターゲットはタケシに決まったの。クラスの女子全員で協力して。みんなタケシのことは友達としてはすごく好きだったし、だから、あの告白癖だけは何とかしなきゃいけない、って思ってたのよ。
私たちはね、こういう計画を立てたわ。自分が普段やってることがどれだけ酷くて見苦しいことか、ということを彼に自覚させなければならない。だから、私たちが普段の彼と同じことをする。けれど、彼と同じことをするためにはたくさんのほかの男子たちを巻き込まなきゃならない。だから少し手法を変えて、女子全員で彼に告白しましょう、ということになったわ。
そうして決行の日、つまり4月1日になったの。クラスの女子のうち3人だけがクジでタケシに直接告白のフリをしなきゃならない、って決められて。私も引いたわ。結果はセーフ。これは本当によかったわ。タケシなんかに私の初告白を取られてたまるものか、って思いながら引いたんだもの。神様もわかっているところはわかってるものなのね。少し信仰心がわいたわ。
そして、決行のときよ。私は幸い、タケシのメールアドレスを知っていたから、メールを使って偽の告白を送ることになったの。適当な文面にして、私の初告白にはカウントされないように注意しながら、送信。すぐに、返事が返ってきたわ。アン、俺、今日はすごく女子たちに告白されるんだけどどうしよう? ってね。もう、笑ったわよ! さすがタケシ、ってね。まさか、4月1日の告白を、しかも尋常じゃないほどの数を鵜呑みにするなんてね! 気づかないとかそんなレベルじゃないでしょう。
私たちもそんな、本気で告白だと受け取られるわけないはずだって腹をくくって、それでも笑えたらいいや、って思って計画を実行したのよ? なのに、ほんと、ありえないわよねえ。そのあと女子全員でタケシに必死に弁解したのよ。これは4.1計画だから、全員、タケシのことを好きなわけじゃない。友達としてはだいすきだけど、男の子としては見られないからこんなお遊びをしたの。そう説明したらタケシは何て言ったと思う? けど俺のこと好きなやつは一人くらいいるだろう? はい、挙手! そんなこと言ったのよ。もう、タケシ面白すぎ! だから友達としてはこれ以上に面白くて好きな子はいないんだけどね。ふふふ」
この調子で、アンは楽しそうに過去の4.1計画についてどんどん語り始めた。数々のエピソードは全て恐ろしいものばかりで、とてもここには書けないような酷いものもたくさんあった。しかし、この4.1計画の恐ろしさや全貌を知るためにはこのタケシというひとりの純朴な少年の話だけで十分であろう。
今年の計画の犠牲者が誰になるか、アンは教えてくれない。可能性のひとつとして、私が犠牲者になる可能性も見据えておかなければならない、ということでもある。
そして、今日は3月31日。明日がかの恐ろしき4.1計画が実行される日だ。どんな恐ろしい事実が私を待っているか分からない。だから、私はあなたに手紙を送る。私がいた証を残す。もしも、もしも万が一私に何かが起こったら、家族に伝えて欲しい。
私は、4.1計画によって消されたのだ、と。
エイプリルフールで思いついた小ネタです。
相手をはめるための嘘を考えている時間は、いつに楽しいものですよね♪
くだらないなあ、とか思っていただけるのが本望です(笑)
感想、指摘よろしくお願いします。