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合格発表

この物語には、戦争・内戦・武器・軍隊などの内容が含まれています。

話の流れによっては、人の死なども出てきます。

それらの事が大丈夫な方のみ、閲覧ください。

また、高校受験に関する内容も含まれていますので、受験生などの方は閲覧を控えたほうがよろしいかもしれません。

 春、と呼ぶにはまだ肌寒い三月。日が当らない部分には、未だ溶けていない雪が残っている。降り始めは綺麗な白い雪だったのが、今では泥や砂利を含んで茶色に変色している。

 

 そんな中、俺は市に一つしかない高校の正面玄関前にいた。

 今日は高校入試の合格発表の日。俺の他にも他中学校の制服を着て受験票片手に、合格番号が張り出されるのを待ちわびている奴が大勢この場にいる。中には緊張しすぎて既に涙目になっている奴や、気休めのつもりなのか試験翌日に公開された問題の答えと、自分の解答を見比べている奴もいる。

そんな風に必死になるのも当然だ。俺たちにとって、高校に合格するかどうかが人生を左右するからだ。


 日本共和国が兵役義務制度を決定したのが五年前。

 少子高齢化で、当時日本共和国の国防を担当していた軍に入隊を希望する人が減ったのが原因らしい。 俺はその時はまだ小学生で、国防の意味も、兵役の意味もよく分かっていなかった。ただ、父親と母親がそのニュースを知ってから、毎晩何か話しこんでいたのだけは記憶に残っている。

 当時の政府は、一律一定の年齢を基準に義務化させようとしていたらしいが、一部の人が将来の社会を支える人材の育成を妨げる、と反対を訴え案はそのままに政府は解散。その後その案を今の政府が引き継ぎ、問題視されていた人材育成についても問題がないように変更した案を実施した。そのため、一市一高校となり、その合否によって義務化対象の奴とそうでない奴を選別するという方法が行われるようになった。

 つまり、今まで一市に数校あった高校を一つにし、学力的に優秀な奴にはより高度な学問を学ばせ、学力の低い奴、要は高校不合格だった奴はそれ以上学ばせずに、その場で兵役を義務付ける、という事らしい。

 実施された年には法案反対者がいたらしいが、三年経過し第一期の卒業者が昨年までの卒業者よりも優秀だと分かると、それ以降大きな反対意見は出ていないらしい。

 そんな事を公民の教師が言っていたような記憶がある。そいつは法案に賛成しているのか、熱心にその後も「そのためにわが国の国力は大幅に上がった」とかなんとか、熱く説明していた。

 自分にはまだまだ関係ない。

 その時になれば頑張ればいい。半分は合格するんだから。


 当時の俺はそんな風に楽観的に、この事を考えていた。


 それから月日は流れ、俺たちの世代が高校受験をする時期になった。

 周りの友人が焦って勉強をしている姿を横目に、俺は自分だったらどうにかなる、という根拠のない自信を持ち、受験直前まで努力をしてこなかった。

 案の定本番は周りの奴らよりも思うように手が動かず、頭が真っ白になり指先の感覚が分からなくなるほど手が冷たくなった。

 で、今合格発表の瞬間を、他の周りの奴ら同様に顔には出さないけども、足の感覚や指先の感覚が分からないくらいに緊張しながら待っている。

 先ほどから握りしめている受験票は、自分で書いたペンの文字が手汗で滲んでいる。本人確認のために貼り付けてある証明写真は、何度も握りしめていたためぐちゃぐちゃになってしまっている。


「おいっ、番号張り出されたって!」

「うそ、本当心臓バクバクしてきたんだけど」

「あ、俺の番号あった!!」

「待てよ、俺の番号は?!俺の番号どこだよ!」

「ちょっと押さないでよ!」


 玄関に合格番号が張り出されると、今まで自分の受験票とにらめっこしていた奴らが、一斉に玄関へと駆け寄る。

 自分の番号をさっさと見つけてうれし涙を流す奴。

 流れに乗り遅れたのか、確認する前に深呼吸を繰り返している奴。

 番号が見つからなくてパニックになっているのか、視線と一緒に頭まで動かしながら数字を目で追っている奴。

 後ろから押されて文句を言いながら、自分の受験番号を確認している奴。


 様々な奴らがいる中で、俺は自分の番号を探し始めた。

「二十七番…二十七番…」

 すぐに大体の番号の並びを理解し、自分の番号がありそうな辺りに視線を向ける。


十八番…二十番…二十五番…


 順々に上から視線を移していく。


二十六番…三十番………


 一瞬見間違いかと思った。信じられずに何度も頭を上下に動かして確認する。もしかして縦並びだったのが、俺の番号から横並びになったのかもしれないと思い、左右の番号も確認する。


 …どこにも俺の受験票に記載されている番号、二十七番は印刷されていなかった。


 今まで冷たかった指先や足の感覚は完全に無くなり、不自然なほど自分の心臓の鼓動が聞こえる。


 周囲の歓声や泣き声も、まるで別次元の音のように聞こえてくる。

 俺は軍に入隊する事が、この時点で確定した。


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