血濡れのエドガー
リーゼンベルクはクックッと笑った。
「仕事の虫はどこも一緒かァ。俺もエドガーとは嫁さん以上に長くいるなァ」
「エドガー殿とは?」
「俺の秘書みてぇなもんだよ」
「長いんですか?」
「田舎で腐ってたとこをナンパしてから、もう3年ぐらいになるか」
「3年……ですか」
ジュドーが歯切れの悪い言い方をした。
「なにか引っ掛かるか?」
ジュドーの瞳を覗きこむ、リーゼンベルク。
「エドガーといえば、俺らの間じゃ『血濡れのエドガー』が有名でしてね。黄の陣営の軍師だった男だったんですが、補給部隊を率いてえげつない作戦を実行して生き延びたとかなんとか。
だからつい、エドガーという名を聞くと過剰反応してしまうんですよ」
ははっと笑うジュドーに、リーゼンベルクはさらりと言った。
「俺の秘書が、そのエドガーだって言ったら、どうする?」
身をのりだし、値踏みするようにジュドーの瞳の奥を覗くリーゼンベルク。
「またまた、ご冗談を」
笑うジュドーに、リーゼンベルクは冷静に言った。
「本人だよ。悪いか?」
一瞬、ジュドーの顔がこわばったあと、真剣な声音でこう言った。
「それが本当なら、ずいぶんな博打をしてますね、リーゼンベルク殿。
悪いことは言わない、倫理観のない輩をそばにおくのはあなたのマイナスにしかならないでしょう。やめた方がいい」
リーゼンベルクは目を細め、キセルを吸った。ジュドーの顔に向けて、ぼわぁと煙をはくと言った。
「それを決めるのはお前さんじゃない、俺だ。噂の表面だけさらって、本質を見誤るんじゃねぇよ。赤の騎士殿」
けほけほ煙でむせながら、ジュドーは言った。
「出すぎた真似をしたなら、申し訳ない。ただ、彼が上げた功績や汚名を、全くのでたらめだとも言えないのが本当のところで。それが理由で彼は黄の陣営を去ることとなった。事実であるからこそのクビでしょうから、警戒するに越したことはない。
5歳になるお子さんがいるならなおさらだ」
リーゼンベルクはキセルをふかしながら、天井を見た。ゆらゆら揺れる煙を見つめながら言う。
「お前さん、拳と拳でぶつかり合えばわかりあえるとか言ってたよなァ、確か。
じゃあこうしねぇか、明日、エドガーと手合わせしてエドガーが負ければ条件をすべてのむ。逆にエドガーが勝てば、さっきの発言を撤回して謝罪する、ってのは」
「いいんですか? そんな条件で。
勝ちますよ、俺は。容赦しませんから」
クックッと笑うリーゼンベルク。
「いいねぇ、ヤル気満々じゃねぇか。
とはいえ現役の魔法騎士と元軍師をそのまま戦わせるのはぶがわるい。
お前さんは魔法なしってのはどうだい?」
「こちらはそれでも構いませんよ。剣の腕にも自信があるので」
「じゃあそれで決まりだなァ。エドガーにはこっちから言っておくから、コンディション整えとけよォ」
クックッと笑うリーゼンベルクに、ジュドーは言った。
「本当にあなたはつかめない人だ。だからこそ不敗神話を立てられたのかもしれないですが……あまり俺を甘く見ない方がいいですよ」
「そっくりそのまま、お前さんに返すよ」
リーゼンベルクはテーブルの上に置いてあったベルをならし、メイドを呼んだ。そしてあれこれを指示したあと、立ち上がった。
「部屋を用意するから、しばらくここで待っててくんな。じゃあまたディナーでな」
「はい、また。お心遣い感謝します」
頭を下げるジュドーを尻目に、リーゼンベルクはメイドを引き連れ、部屋を出ていった。




