職権乱用
「ふう、思い止まってくれてよかったっす」
安堵するエドガーに、ルクソニアが澄んだ瞳でこう言った。
「わたしはまだやり足りないわよ」
キラキラした目でエドガーを見つめるルクソニアと、顔がひきつるエドガー。
シトリンの粘液が溶け、半身ずぶ濡れ、半身土まみれになったエドガーは、渋い顔をした。
「諦めてください、お嬢様。もう塩はいらないんで。やんちゃが過ぎると俺も怒るっすよ」
「やんちゃじゃないわ、ネバネバを溶かすのよ!」
「ネバネバはもうないっす」
「あるかもしれないじゃない!」
「全部水に戻ったんでないっすよ。
ーーそれにしても服が濡れてて動きにくいっすね」
エドガーは服の裾を絞り、水をきっていく。
「ーーそれならいい考えがありますよ?」
満面の笑顔で言う泣きぼくろが印象的なメイドに、嫌な予感を感じたエドガーは頬をひきつらせた。
「なんか嫌な予感しかしないんで遠慮しまーー」
泣きぼくろが印象的なメイドは、ガシッとエドガーの手を掴むと言った。
「まあまあ、遠慮なさらずに。
そのままだと、肌が痒くなっちゃいますわ」
にっこりと笑顔を顔に張り付けたまま言う、泣きぼくろが印象的なメイド。
嫌な予感に冷や汗を流すエドガーを無視して、魔法を使った。エドガーに。
五分後。
泣きぼくろが印象的なメイドの風魔法により、左右上下に体を揺さぶられているエドガーの姿があった。
飛び散る水滴と塩の粒、舞い上がる土煙に、ルクソニアが目をしぱしぱさせていると、ヨドが後ろからルクソニアを引き寄せ、ローブで彼女をかばう。
「アンさんんんん、これ酔うっすううう!」
「もう少し我慢してくださいね、エドガー先生」
にこにこ笑顔で言う、泣きぼくろが印象的なメイド。
「もう少しで完全に水や塩や土が落ちてくれるはずなので、ファイトですわ♪」
「アアアア!! もう落ちたっすよ、もう落ちたっすよ!」
「もう少し我慢しましょうね~。
とはいえ、上手く搾れてないわね……。
ーーそうだ。メアリ、あなた水魔法が使えたわよね?
服についた水分を使って、体についている土をまとめて地面に落とすことってできるかしら」
泣きぼくろが印象的なメイドが、お団子頭のメイドに聞いた。
「出来なくはないですけどぉ、私そこまで魔力コントロール上手くないですよー?」
「水を使って土をまきこみ、一緒に地面に落とすイメージでやってもらえたら大丈夫よ」
「うーん……。じゃあとりあえずやってみますね~?」
お団子頭のメイドが目を閉じ、両手を組んで意識を集中させる。
するとエドガーの周囲に飛び散っていた水の粒が浮かびあがり、くるくると彼を取り巻くように回りだした。水の粒は塩や土の粒を巻き込んで旋回し、一定の距離を保つと力なく地面に落ちる。
「ふうー、私の力ではここまでが限界ですぅ~!」
お団子頭のメイドがやりきった顔をして、額の汗をぬぐう。
それと同時に、エドガーを揺さぶっていた風魔法も解かれ、エドガーはそのまま地面へとヘナヘナと崩れ落ちた。
「エドガー先生、大丈夫か!?」
エドガーを心配してしゃがみこみ、背中をさする筋肉ムキムキの庭師。
「酔ったっす……」
口許を押さえて青い顔で言う、エドガー。
ふらふらと立ち上がると、いつの間にか吹き飛んで地面に転がっていた眼鏡を回収し、顔に装着する。
「お嬢様……は?」
しわがれた声でルクソニアの姿を探すエドガーに、ヨドが静かにローブをまくり、ルクソニアの姿を彼に見せた。
「お嬢様……こちらへ」
エドガーは青い顔でヨロヨロしながらも、ルクソニアに近づいてくる。
しばらく悩む、ルクソニア。
「俺のこと、嫌いになっちゃったっんすか?」
数歩手前でエドガーは立ち止まると、膝を折って腕を広げるエドガー。
「だってエドガーはわたしを甘やかして、なにも教えてくれないでしょう?
守られてばかりは嫌なの。
私だって、みんなを守りたいのよ。
みんなのこと、大好きだから……!」
ルクソニアの瞳から涙がこぼれ落ちた。
エドガーの目が少し見開かれる。
「お嬢様……。
そんなに早く大人にならないでほしいっすよ。寂しくなっちゃうじゃないっすか」
困ったように笑うエドガーをみて、ルクソニアはヨドから離れ、エドガーの胸の中へ飛び込んだ。
「お帰りなさい、お嬢様」
噛み締めるようにルクソニアを抱き締めるエドガーに、泣きぼくろが印象的なメイドが言った。
「あとでちゃんと叱ってくださいね、エドガー先生。」
「目を離したお団子と一緒に、ちゃんと叱るっすよ」
ルクソニアは静かに身を離してこう言った。
「やっぱり怒るの?」
「怒るんじゃなくて叱るんすよ、お嬢様。
大好きだから叱るっす」
「大好きだから?」
「そう、大好きだから。
ヨドさんよりもずーっとずーっと、お嬢様の事が大好きだから叱るんすよ」
「それってロリコーー」
「言わせないっすよ、アンさん。違うっすから!」
食いぎみにつっこむエドガーに、ルクソニアは無垢な瞳で聞いた。
「ロリコってなに? エドガー」
言葉につまるエドガーの代わりに、ヨドが代わりに答える。
「ロリコ、ではない。
ロリコンだ、ルクソニア嬢」
「ヨドさんも余計な知識を与えないでほしいっす!」
ルクソニアをぎゅっと抱き締めてヨドにつっかかるエドガーに、お団子頭のメイドが少し頬を赤くしていった。
「エドガー先生ぇ、その流れだと、同じように叱る私のことも大好きなんですかぁ?」
「お団子はただの職務怠慢だから、アンさんと共に減給っすよ」
泣きぼくろが印象的なメイドと、お団子頭のメイドに衝撃が走った。
「減給……!?
そんなのひどいですわ、エドガー先生。
職権濫用ですっ」
うるうるとした目で(ウソ泣き)訴える泣きぼくろが印象的なメイド。
「そうだ、そうだー!」とそれに同意するお団子頭のメイド。
それを無視して、エドガーはルクソニアを抱き抱えたまま、立ち上がった。
「文句なら後でたーっぷりお説教した後に聞くっすよ、二人とも。
とりあえず俺はお嬢様を風呂に入れるんで、後のことはよろしく~!」
言ってエドガーは転移ゲートを出し、ルクソニアと共に入り、泣きぼくろが印象的なメイドらの目の前から消えていった。




