確定された未来
「こーなるとお嬢様はほんと面倒なんすよねぇ。
テコでも動かんぞ、的な頑固さみせてくるから」
頭から手を離したエドガーは、髪と手の間にネバネバの橋ができているのを見て、再びため息を漏らした。
「テコでも動かないわ!」
「ほら来たー!
はいはい。お嬢様はあくまでも俺の話は聞いてくれないんすねー」
面倒臭そうに言うエドガーに、ルクソニアが噛みついた。
「エドガーだって、ヨドの話を聞いてくれないじゃない!」
「聞くっすよ、10分くらいなら。さあどうぞ」
エドガーはヨドに手を向け、話をするように促す。そのぞんざいな扱いにルクソニアの怒りもますます加熱し、ぷくーと頬を膨らませるとエドガーを上目使いで睨んだ。
「エドガー殿。
確かに私は東の部族、唯一の生き残りだ。
青の王妃のお目こぼしで生き残ることができている、死に損ないでもある。
あなたが私を警戒する気持ちもわかるが、聞いてほしい。これは確定された、そう遠くはない未来での話。ルクソニア嬢が自ら考え、判断せねばならないときが必ず来るだろう。
その時、まわりには身内が誰もいない。
だからこそ今のうちに、必要な知識と情報をルクソニア嬢に与えておかなければいけないのだ」
ヨドの言葉に、エドガーはごくりと唾を飲み込んだ。
「ーーそれが噂に聞く、マユツバものの予言っすか?
信じられないっすね。お嬢様のまわりにはいつも誰かしらついてるんすよ?
誘拐でもされない限り、一人きりにはならないっすよー、今回が特別だっただけで。」
エドガーのセリフに、ヨドが眉を潜めた。
「その過信はどうだろうか。
運命の歯車は、とうに回っている。
来るべき時はき、待ってはくれないだろう。
ならばいっそ、出来るだけの備えをするのが肝要なのではないだろうか」
エドガーは腕を組み、横目でヨドを値踏みするように見た。
「そう言って引っ掻き回すのがヨドさんの手なんじゃないっすかー?
うさんくさい。信用できないっすよ」
「ヨドは信用できるのよ!
私をワンちゃんから助けてくれたもの!」
ふんすと鼻息荒く言うルクソニアにエドガーは再び、大きなため息を吐いた。
「ーーエドガー先生」
そんな中、泣きぼくろが印象的なメイドが真剣な面持ちでエドガーに声をかけた。目が合うと首を横に振る。
それを見たエドガーは渋々頷くと、頭をガシガシかきながら言った。
「ハァーーーーーーーー。これだもんなぁ。
いいっすよ、もうなんか面倒臭くなったんで、一度旦那様と話してみたらいいんじゃないっすか、もう。
時間はこちらで調整するんで、今日は泊まっていってくださーい。というわけで、お嬢様、いい加減ヨドさんから離れてくださいよ。ほら、こっちおいで」
ルクソニアはヨドにベッタリとしがみついたまま、首を横に振る。
「拗ねてるんすか」
「だってエドガーが私を子供扱いするもの。蚊帳の外に追いやるんだもの」
つんとそっぽを向くルクソニアに、エドガーは渋い顔をした。
「実際子供でしょー、5歳なんて。子供扱いして何が悪いんすか。
ヨドさんのせいっすよ、これ。
今日中にどうにか言い含めてくれないと、ディナーに魔獣出すっすよ」
ヨドは青い顔をし、額に手を当てて言った。
「それはもう、確定された未来だ。」
「予言っすか?」
それを聞いた泣きぼくろが印象的なメイドが、ヨドに申し訳なさそうにしながら、エドガーに説明した。
「いえ、それがその……お嬢様がどうしてもギャタピーをヨド様に食べさせたいと言ってきかなくて……。流れで今晩のディナーに、ギャタピーを出すことになってしまったんです」
それを聞いたエドガーの眼鏡が怪しく光る。
「それは面白いっすね。
せっかくなんで毒がある頭の部分を出してやるっすよ、ヨドさんには」
「そんなのダメよ! ヨドは大切なお友だちなんだから!」
ヨドのローブを握ったまま、プンスコ怒るルクソニアに、エドガーは舌を出した。
しかしルクソニアは、
「ではお嬢様。今晩のディナーにギャタピーはやめておきましょうか」
という泣きぼくろが印象的なメイドの提案には首を縦には振らず、断固ギャタピーをディナーに出すと言い張った。
それを聞いてますます顔色が悪くなるヨドをみて、エドガーはおかしくてケラケラ笑っている。




