ヨド
陽が当たり、真珠のようにキラキラと光る銀髪が、サラサラと風に吹かれてたなびく。
ルクソニアは、瞳に映る光景に言葉を失った。
雪のように白い肌、陽の光を浴びキラキラと光る銀の髪、そして虹色に輝く印象的な瞳ーーそのどれもがルクソニアがはじめて見るもので、そのどれもが彼女の心を掴んで離さなかった。
「きれい……」
茂みから現れたその人は、魔獣が住む森の中で、思いがけず幼き少女に出会ってしまい、少しばかり驚いているようだった。
「これはまた、面白い縁を拾ってしまった」
その人は独特のイントネーションで、ルクソニアに話しかけた。穏やかで落ち着いた、物腰が柔らかい大人の男性だった。
ルクソニアの目の前まで来ると、その人は地べたにへたりこんでいるルクソニアの目線に合わせるように、自身も静かにその場にしゃがみこんだ。
「お嬢さん。こんなところで何をしているのか、私に教えてくれないだろうか」
ふっと柔らかな笑みを浮かべ、その人はたずねた。
「……本当の事が知りたいから、わたし、森の先へ行くの」
「本当の事?」
「ええ、そう。本当の事よ。
世界のあり方が、本に書いていた通りのものか確かめにいくの」
ふんすと鼻息荒く言うルクソニア。
「それはとても、熱心なことだね、お嬢さん」
茶化すでもなく、叱るでもなく。その人はルクソニアの言うことを、ただ静かに受け止めた。
それはルクソニアにとって、とても新鮮な出来事だった。
「お嬢さんじゃないわ、ルクソニアよ。
子供扱いはしないで、わたしもう五歳なんだから」
つんとすまして言うルクソニアに、その人は怒るでも笑うでもなく、穏やかに受け止め、返した。
「それは申し訳ないことをしたね、ルクソニア嬢。私のこと、許してくれるかい?」
「そうね、おじさんの名前を教えてくれたら、許してあげる。」
「お、おじっ!?」
珍しくその人の声が裏返った。
「おじさん、どうしたの?」
「ンンッ!
ルクソニア嬢、今から大事なことを確認するよ?
私はおじさんじゃない。まだ30代なんだ。
辛うじておじさん、一歩手前になるとは思わないかい?」
ルクソニアはキョトンとした目で、その人を見た。
「おじさんでしょう?」
「お兄さん、と言ってはもらえないだろうか」
その人は、まっすぐにルクソニアを見た。
「それは難しい要求ね。おじさんはおじさんだもの。
年齢は素直に受け入れた方が老け込まないって、わたしのパパも言っていたわ。
わたし、嘘はつきたくないの」
澄んだ瞳でまっすぐにその人を見つめるルクソニアに、おじさん(仮)も黙るしかなかった。
「でも……そうね。
どうしてもと言うなら、名前を教えてちょうだい。そしたらおじさんって、呼ばなくてすむもの!」
ニコッと笑うルクソニアに毒気を抜かれたその人は、静かに口を開いた。
「私の名は、ヨド。ただのヨドだ」




