五体満足
「そうですわね。エドガー先生が青の陣営のスパイでない限りは。」と、泣きぼくろが印象的なメイドが、感情の読めない笑顔で言った。
エドガーの顔に緊張が走る。
「ーー何が望みっすか」
泣きぼくろが印象的なメイドはエドガーの喉元から心臓へと服の上から指を滑らせ、言った。
「ここ、見せてくださらない?」
「胸っすか? 何もないっすけど……」
「何もないことを証明してくださればいいんです。王族直属の暗部組織は忠誠の証として、心臓がある辺りに魔章紋を刻みますから。
何もやましいことがなければ見せられるはずですわ」
エドガーの胸元をトンと軽く指先で突いたあと、泣きぼくろが印象的なメイドはエドガーの手から懐中時計を奪った。
「ーーあ」
取り返そうとするエドガーの手を掴むと、泣きぼくろが印象的なメイドは自身の方へ引き寄せ、耳元で囁いた。
「私が脱がしてさしあげましょうか?」
その瞬間、エドガーの顔に熱が溜まり、沸騰したように爆発した。
「じじじじ、自分で脱げるっす……!」
顔を背けるエドガーに、泣きぼくろが印象的なメイドがくすりと笑う。
「そう……なら早く見せて?」
エドガーの耳元で囁く、泣きぼくろが印象的なメイド。
「ちょちょちょちょっと!!
なんなんすか、さっきから!!」
片耳を押さえ、エドガーは慌てて泣きぼくろが印象的なメイドから距離をとった。
「あら、せっかく脱ぎやすいムードを作って差し上げたのに。」
ふふふといたずらっぽい笑顔を向ける、泣きぼくろが印象的なメイド。その姿に、エドガーは自身が彼女にからかわれていたことを悟る。
「そんなムード要らないっすよ……」
少し照れながらも、シャツのボタンを上から外していくエドガー。
「とはいえ禍根は残さない主義なんで、なーんにもやましいことないから見せるっすよ。ほれ」
そう言ってエドガーは泣きぼくろが印象的なメイドに胸元をさらした。
泣きぼくろが印象的なメイドは少しだけ緊張した表情でエドガーの胸元に懐中時計を近づけ、何も反応がないことを確かめると、小さくふぅと息を吐いた。
「これでお互い、身の潔白を証明できたっすよね?」
言いながらエドガーは泣きぼくろが印象的なメイドの手から懐中時計を奪い返した。
「そのようですわね。別の場所に魔章紋を彫っていなければ、の話ですけど。」
「そんなこと言ったら、お互い裸にならないと確かめようがないっすよ?
いいんすか? それでも」
「良くはないので、とりあえずはエドガー先生を信用することにしますわ」
「それはよかった。
俺も流石に、見知った異性の前で裸になるのはちょっと……というかだいぶ、恥ずかしいっすからねぇ。
信用してくれて何よりです。
あ、もちろん俺もアンさんのことを信頼するっすよ? 能力がゴリラ的な意味でも。」
その瞬間、エドガーの腹に泣きぼくろが印象的なメイドの拳がめり込んだ。
「ぐはぁ!!」
どさりと力なく地面に転がるエドガー。
腹を押さえてピクピクと体を震わせている。
そんなエドガーを黒い笑顔で見下ろし、泣きぼくろが印象的なメイドが言った。
「私、ゴリラじゃありません。」
「どのあたりをもってして、ゴリラじゃないと言えるんすか……」
青白い顔で泣きぼくろが印象的なメイドを見上げるエドガー。
「もう一発、いっとく?」
にっこり笑顔を浮かべ、げんこつを顔の横で構える泣きぼくろが印象的なメイド。
エドガーの顔色はますます悪くなり、絞り出すようにこううめいた。
「……命が惜しいので遠慮するっす」
「懸命ね。さ、お互いの誤解もとけたことだし、さっきの場所に転移ゲート、出してくださらない? お嬢様が心配だわ」
エドガーは地面に転がったまま片手でお腹を押さえ、弱々しく反対の手を地面にかざすと転移ゲートを出現させた。
「お嬢様の事、よろしく頼むっすよ……」
「任せてください。五体満足で連れ帰りますわ」
言うやいなや、泣きぼくろが印象的なメイドは転移ゲートの中へ入っていく。
エドガーは地面に転がったまま、弱々しく親指をたてて泣きぼくろが印象的なメイドを見送った。




