好奇心は身を滅ぼす
「ええっとーーエドガー先生?」
泣きぼくろが印象的なメイドはひとつ咳払いをすると、エドガーをまっすぐに見据えて言った。
「本当に全部、聞きたいですか?」
それに対し、エドガーは右手の親指をたてながら、満面の笑顔でこう言い放った。
「そうやって隠されると、余計知りたくなっちゃうっすよ、アンさん!」
泣きぼくろが印象的なメイドは、諦めたように肩を落とし、哀愁漂う表情でこう返した。
「……エドガー先生が、是が非でも内情を聞き出そうとする根性があるのはわかりました……」
「それはよかった。で、内情ってなんっすか?」
「お嬢様の素性についてですわ。
あの方はとても尊い血筋の生まれなんです。生まれつきの魔力量が少ないせいで秘密裏に養子に出されましたが、本来ならあなたごときイチ平民が気さくに話していい身分のお方ではないんですよ」
エドガーは雲ひとつない空を見上げて言った。
「尊い血筋の生まれねぇ。
護衛をつけるくらいだから、遠からず王族に名を連ねる家系の生まれってとこっすかねぇ、その話の流れだと。確かにこれはトップシークレットな話っすねぇ」
エドガーの反応を見て、泣きぼくろが印象的なメイドは片眉を持ち上げて言った。
「驚かないんですか?」
「驚くもなにも、驚く話をする前提で俺たち今、話してるんすから。
心構えがあれば、それなりに落ち着いて聞くこともできるっすよ」
「そういうものでしょうか……」
「そういうものっすよ。で、アンさんが聞いておきたい旦那様との約束の話っすけど。
なんてことはない、他愛のない話っすよ。
捕食して魔力を補えるようにできれば、お嬢様みたいな低魔力者や戦場で戦っている魔法騎士団の助けになるっすから、まあ、それが出来たら、世の中今より生きやすくなるよねって話っすよ。
それに付け加えて、転移ゲートの出力をあげることで、何かしら向こう側へ戻れる算段が立てられないか、相談されたくらいっす」
「向こう側?」
「旦那様の生まれた世界ーー日本と言う異世界の事っすよ。異世界転移者は、今はまだ原因不明の転移現象として取り扱われてるっすけど、俺も旦那様も転移ゲートの研究を進めれば何かしら向こう側に戻れる手だてができるんじゃないかと、そんな話をね、してたんすよ」
「そんな話を、旦那様と……。
どうりでこそこそしてるわけね。
異世界転移者を帰すことはこの国ではタブーとされていることだもの」
「魔力の源は精霊の力なり、その精霊と心通わせられるのが異世界転移者とその子孫のみ、ってのがみそっすよねぇ。
そのせいで国を二分する戦争にまで発展してしまったわけだし、旦那様も思うところがあって、帰りたくなったんじゃないっすか?」
言ってエドガーはくっくっと笑った。
「笑い事じゃありませんわ。
私が虹の王に密告したら、旦那様と二人で牢獄行きになること、わかってて話しているんですか?」
「そっちこそ、王族に怒られちゃうんじゃないっすか?
お嬢様の素性を明かしてしまって。
弱味を握ったのはこちらも同じっすよ。
だからこれからは運命共同体っす。
ーー裏切りはなしっすよ?」
エドガーは眼鏡の位置を中指で直しながら、
レンズを光らせて言った。
「好奇心は身を滅ぼす、自分にも帰ってくるとは思わなかったわ」
泣きぼくろが印象的なメイドは、青い空を見上げて呟いた。




