楽園の崩壊
彼女が城の外へ出た理由ーーそれは、見聞を広げるためだった。
何不自由ない城での生活は、まるで温室のようだった。彼女を傷つけるものは一切排除された、閉鎖的な楽園。
ルクソニアが城での生活に疑問を持ったのは、書庫である文献を読んだからだった。
『この国では、魔力量が多いほど地位が高くなる。魔力を持たず魔法が使えない獣人や、生まれつき魔力量が低いもの、魔法が使えない無能者などは、皆等しく奴隷に落とされてしまう。これは、この国が魔法によって諸外国を占領し、発展してきた歴史があるからに他ならない。』
その文章を読んだとき、ルクソニアは思わず持っていた本を床に落としてしまった。
辺境の地に住むとはいえ、ルクソニアは貴族の子供である。しかし魔力量は微々たるもので、握りこぶし一個分のバリアをはるのがせいぜいの、ほぼ無能力者と言ってもいいレベルの人間だ。
この本に書かれていることが本当なら、ルクソニアは貴族としての条件を満たしていない。本来なら、奴隷に落とされてしかるべき人間なのである。
嫌な汗がルクソニアの頬を伝い、落ちた。
父がおさめる領地に、人はいない。
人がいるのは、城の中だけ。
自分がぬくぬくと城の中で生活することができているのは、事情を知っている城の関係者が、ルクソニアの秘密を口外しないから成り立っているのではないかーーそんな嫌な考えが頭の中を行き来する。
ルクソニアは青い顔をして、口元を押さえ、うずくまった。吐き気が、止まらない。
その日、彼女を包むあたかく幸せだった楽園はガラガラと音をたてて崩れ落ち、一気にきな臭いものへと変貌するのだった。




