ピンチ
そんな事になっているとは露知らず、森の中では。
休憩を終え、再び城を目指し歩き始めたルクソニアとヨドが、ウォーウルフの群れに囲まれていた。
青い炎のたてがみを揺らめかせ、ウォーウルフが唸りをあげながら、じりじりと二人ににじりよる。
「よ、ヨド……。
青いたてがみのワンちゃんが近づいてくるわ」
ルクソニアは不安げに、ヨドを見上げた。
魔法が使えない二人にとって、複数の魔獣にとり囲まれているこの状況は、とても危険な状態といえる。
ヨドは片手でルクソニアの体を引き寄せると、ウォーウルフからの攻撃を庇う体勢をとった。
「ルクソニア嬢。
あれはワンちゃんではない。魔獣だ」
視線をウォーウルフに向けたまま、ヨドが言う。ルクソニアはヨドの足にしがみつくと、今にも飛びかかりそうなウォーウルフの様子をちらりと横目で見て、ぽつりと言った。
「魔獣……?
これ……うちの森で飼っている魔獣のワンちゃんなの……?」
ヨドは思わずルクソニアの方をみた。潤んだ瞳の少女と目が合う。ふざけていないことを確認したヨドは、ルクソニアを諭した。
「……ルクソニア嬢。
あれは群れで行動する習性がある、中型の魔獣・ウォーウルフだ。
屋敷で飼っている犬、猫のように言うものではないよ」
ルクソニアは、ヨドの目をまっすぐに見つめながら言った。
「でも、餌はいつもエドガーがあげているわよ? ペットとは違うの?」
ルクソニアの澄んだ瞳が、困惑したヨドの姿を映す。
「……それでも、魔獣は魔獣だ。
危険なことに変わりはない」
ヨドの言葉を聞いて、ルクソニアの瞳が揺れた。
「危ないの……?
なら、はやく逃げないと……!
わたしもヨドも魔法が使えないんだし、武器らしい武器も持っていないわ!」
青ざめるルクソニアを安心させるために、ヨドは優しく微笑むと言った。
「武器はある。
私を信じて、身を預けてくれるだろうか、ルクソニア嬢」
ルクソニアは真剣な眼差しで、静かに頷いた。
それをみたヨドは静かに微笑むと、服の袖から小型ナイフを数本滑らせ、指の間に挟んで構える。
「ヨド、それ、魔法みたいね!」
それを見て瞳をきらめかせるルクソニアを上手に片手でなだめながら、ヨドは魔獣に視線を移した。
ウォーウルフはよだれをたらしながら、血走った目で二人を見ている。前足で軽く地面をかくと、ウォーウルフは駆け出した。
グルルル……!
唸り声をあげ、集団で飛びかかってくる青い魔獣の群れ。
ルクソニアの叫びが、森のなかにこだまする。
ルクソニアはヨドの足に顔を埋めると、ぎゅっと目を閉じた。




