無駄足前提
それから10分後。
捜索メンバーが全員、庭に戻ってきた。地図を中心にして頭を付き合わせて円になり、エドガーの指示を仰ぐ。
地図を指差しながら、エドガーが各人赴く場所を指定した。
「……って感じっすね、配置は。
とはいえこのポイントは念の為にまわるだけなんで、まあ、無駄足前提で動くことにはなるっす。
魔獣の縄張り付近を探索する事になるんで、行動は慎重に。ヤバそうなら無理せず、引き返してきてほしいっす」
筋肉もりもりな庭師がアゴに手を当て、地図を見ながらエドガーに聞いた。
「この配置じゃ、ちとアンちゃんの負担が大きすぎやしねぇか?
下手したら、魔獣の群れに突っ込む形になんぞ」
エドガーはしれっとそれに返した。
「あー、まぁ。十中八九、魔獣の群れには突っ込むことになるっすねー」
エドガーの発言に、筋肉もりもりな庭師は衝撃を受けた。
「いや、あんた鬼かよ!
アンちゃんみたいな華奢な女の子を魔獣の群れん中に放り込もうなんざァ、どうかしてるぜ!!」
おだんご頭のメイドも、それに同意する。
「そーですよぉ!
いくらなんでもアンさんに対して酷すぎます、エドガー先生!
こーいう危ないところは、男の人に行ってもらうべきですーっ!」
プンスコ怒るおだんご頭のメイドを無視して、エドガーは地図から目をそらさずに淡々と言った。
「配置がえはしないっすよ」
エドガー以外のメンバーがどよめく。
皆がドン引いている空気を察したエドガーは、地図から顔を上げ、はあ……と大きくため息をつくと渋々説明を始めた。
「なんか俺が悪者みたいな空気になってるけど、別に嫌がらせでここに行けって言ってる訳じゃないっすからねー」
「じゃあどういうつもりか、説明していただけます? エドガー先生」
凄みのある微笑みを浮かべ、泣きぼくろが印象的なメイドは言った。
「俺が行ったっていいんだぜ?」と泣きぼくろが印象的なメイドを援護する、筋肉もりもりな庭師。それを見て、エドガーは冷めた目でボソッと言った。
「……筋肉もりもりな庭師さんは地面カチ割るしか能がないっしょ」
「あぁん!?」
エドガーの襟首を掴み、眉根を寄せて凄む筋肉もりもりな庭師。顔に若干の冷や汗をかきながら、エドガーは冷静に、それに対応する。
「アンさんに行ってもらう場所は、ウォーウルフが徘徊してるエリアっす。
ウォーウルフは中型魔獣で、集団で狩りをする習性がある。|囲まれても対応できる人が行かないと、ダメなんっすよ。
ハイドさんの地属性魔法は、土に伝わった衝撃を倍の威力にして伝える力っすけど、それだと小規模全体攻撃しか出来ないんすよ。
余裕でウォーウルフの射程圏内に入っちゃうんで、かじられますよ、フツーに。
アンさんなら遠距離広範囲攻撃が可能なんで、メンバーの中では一番安全パイ。変にぶりっ子しなけりゃ、余裕で対処出来るはずっす」
筋肉もりもりな庭師は少ししょんもりしながら、襟首を掴んでいた手を離した。
「ほらー。
アンさんが駄々をこねるから、士気が下がったじゃないっすかー」
「わ、私が悪いんですか……!?」
泣きぼくろが印象的なメイドは、不服そうに声をあげた。
「わざわざ落ち込ませないよーにぼかしてたのに、それを掘り返したのはアンさんのせいっすよ」
エドガーは物言いたげに、泣きぼくろが印象的なメイドを見た。
「うっ……、そ、それは私だけのせいじゃ……」
エドガーは生暖かい微笑みを浮かべ、言った。
「いい加減、本性がゴリラだって認めた方が楽っすよ?」
その瞬間、庭の空気が凍った。
「エドガー先生、私、ゴリラじゃありません。」
顔に微笑みを張り付け、泣きぼくろが印象的なメイドが穏やかに言った。
「謙遜するなんて、アンさんらしくない!
筋肉ムキムキなハイドさんより、攻撃力が高いゴリラだって事はもう周知の事実なんすから、今さら隠すこともないでしょ?
自信をもって!」
エドガーはとても良い笑顔で、顔の横で握りこぶしを作って言った。




