ゴリラ
その頃、丘の上にある古城の庭では、ルクソニアの家庭教師であるエドガーが地図を片手に唸っていた。
(大方の場所は潰したけど、お嬢らしきものは出ず、か。……これはいよいよ、不味くなってきたな)
地図を持つ手に力が入り、くしゃりと嫌な音を立てる。
(いま当たってる場所がダメなら、残りは1ヶ所。城壁から大きく西へそれたルート。よほどの方向音痴じゃないと通らない場所だし、ここには行ってないと踏んで最後にまわしたんだけど……予測が甘かったか?
最悪みつからない場合に備えて、いくつか対策を考えといた方がいいかもしれない)
エドガーは空いている手で頭をガシガシかきながら、×印が踊る地図を睨む。
ブウンと音を立てて、泣きぼくろが印象的なメイドがゲートから戻ってきた。
それに気づいたエドガーが地図から顔を上げ、彼女へと視線を移す。
「お帰りっす。首尾はどうっすか?」
泣きぼくろが印象的なメイドは、ため息をついて言った。
「8ヶ所よ」
「どこっすか?」
エドガーは泣きぼくろが印象的なメイドの側に駆け寄り、地図が見えるように身を寄せた。
「こことここ、それからここと……」
泣きぼくろが印象的なメイドは地図を指で指しながら、該当箇所をエドガーに伝えた。それに合わせてエドガーは地図にペンを走らせながら印をつけていく。
「8ヶ所なら、ギリ一斉に探せる数っすね。……何ヵ所かは魔獣の徘徊エリアになってるっすけど」
「さらっと不吉な事を言わないで下さいっ、エドガー先生!
……私、魔獣とか相手に出来ませんよ?」
上目使いでエドガーをにらむ、泣きぼくろが印象的なメイド。エドガーはそれをさらりと無視して、冷めた目で地図を見ながらこう言った。
「魔獣の脳を震動させて、脳震盪でも起こせば大丈夫じゃないっすか?」
続けてエドガーは鋭い目付きをし、確信を持った声で言い放つ。
「ーーむしろアンさんは、一番安全に魔獣倒せるゴリラな能力を持ってるっすよ……!
ゴリラとしての自覚を、もっと持ってもいいと思うっす!」
エドガーのみぞおちに、泣きぼくろが印象的なメイドの肘鉄がクリーンヒットした。
「げふ!」
みぞおちを押さえ、地面に崩れ落ちるエドガーと、氷の微笑みでそれを見下ろす泣きぼくろが印象的なメイド(ゴリラ属性)。
悶えるエドガーの視界の端に、上下に揺れるピースサインが映る。
エドガーは震える手で縮小したゲートに手を伸ばし、魔力を流して、その幅を人一人通れる大きさに拡げた。
ゲートからおだんご頭のメイドが出てくると、地面にうずくまるエドガーを見て呆れた。
「また何か余計なこと言ったんですね、エドガー先生……」
泣きぼくろが印象的なメイドが地面にうずくまるエドガーを無視して、おだんご頭のメイドに声をかける。
「そちらもダメだったのね……」
「そうなんですよー!
ただの魔獣だったんで、こっそり木の影に隠れてやり過ごしたんですー!」
ブンブン握りこぶしを上下に振りながら、おだんご頭のメイドが熱弁する。
それをなだめながら、泣きぼくろが印象的なメイドが説明した。
「次の場所で最後になるけど、該当箇所が8ヶ所あるから、私も一緒に探すことになったわ」
脇腹を押さえ地面から立ち上がりつつ、エドガーはおだんご頭のメイドにキリリとした顔で言った。
「アンさん一番ゴリラなんで、一番キツイ所に行ってもらうことになったっす……!」
「エドガー先生……?」
氷の微笑みを浮かべ、エドガーに無言の圧力をかける泣きぼくろが印象的なメイド。
おだんご頭のメイドは、それを必死でなだめた。




